UNCTAD、CBD事務局、OECDが共催するサイドイベント「Trade and Biodiversity in Focus: policy pathways to delivering the KMGBF targets」に参加しました。本イベントでは、貿易政策が昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の実施をどのように支えられるかについて、国際機関、政府、企業の立場から知見や実践が紹介されました。

私が特に注目したのは、生物多様性の損失に対する貿易の責任と、その影響を変えるための政策です。食料、衣類、木材などを海外から調達する私たちの暮らしは、生産地の自然とつながっています。貿易を通じた生物多様性への影響を、生産国の問題としてだけでなく、消費国である日本の課題として捉える必要があると考えながら、議論を聞きました。

生物多様性が支える貿易を、保全を支える貿易へ

UNCTADのLorena Jaramillo氏の発表では、生物多様性が国際貿易と経済活動の基盤であることが強調されました。UNCTADによると、生物多様性由来製品は、2024年の世界の商品貿易の約17.3%を占めています(UNCTAD,2026)。

ここでいう「生物多様性由来製品」とは、生物資源を原料とする食品、木製家具、綿製品などを含む分類です。この統計は生物由来であることに着目しており、すべての製品が持続可能に生産・調達されていることを意味するものではありません(UNCTAD,n.d.)。

貿易は、土地利用の変化、天然資源の過剰利用、侵略的外来種、汚染などを通じて、生物多様性への圧力を高める可能性があります。一方、適切な政策やガバナンス、ビジネスモデルによって、持続可能な利用や公正な利益配分を促すこともできます。発表では、この可能性を実際の経済活動にどう組み込むかが論点となりました。

印象的だったのは、環境上の目標と市場の条件が一致していない場合があるという指摘です。天然由来の製品にかかる関税が、代替するプラスチック製品よりも高い場合には、前者の競争条件が不利になります。持続可能な製品の普及を目指すのであれば、企業や生産者が直面する関税や市場条件にも目を向ける必要があります。

また、循環経済によって生産に伴う負荷を減らすことも強調されました。ケニアで、従来は焼却されていたパイナップル由来の残さを繊維などに利用する事例が紹介され、廃棄物の活用と新たな事業機会を結びつける実践として印象に残りました。

こうした説明から、輸出入の段階だけでなく、資源の調達、生産、加工、販売まで、バリューチェーン全体を考える必要性を感じました。貿易を保全につなげるには、取引量や金額に加え、どのように生産され、どの段階で環境負荷が生じ、誰に利益が届くのかを捉えることが重要だと思います。

双方向の影響を整理し、政策につなげる

OECDのShunta Yamaguchi氏は、貿易と生物多様性の関係を整理する概念枠組みを紹介しました。貿易・経済活動が生物多様性に影響する一方、生物多様性も、受粉や栄養循環などを通じて生産と貿易を支えています。生物多様性の損失は、その経済的な基盤を損なうことになります。

さらに、貿易政策と生物多様性政策も互いに影響します。貿易協定にどのような環境条項を設けるか、補助金や規制によってどの活動を促すかといった制度の設計が、生産や取引のあり方を変えるためです。

 OECDの貿易と生物多様性の概念枠組み

私がこの発表に感じた価値は、貿易の正負の影響、生物多様性への依存、政策間の関係を整理し、具体的な分析や政策判断につなげようとしている点です。貿易と生物多様性の双方に利益がある機会を広げるためにも、どこにリスクやトレードオフがあるのかを明らかにし、根拠となるデータや研究を蓄積する必要があると理解しました。

続くパネル討論では、貿易と環境の分野間の壁を越え、政策を整合させる必要性が繰り返し語られました。スウェーデンの発表では、紹介された国内の環境目標に貿易との関係が明示されていないことが指摘されました。また、省庁間の連携には、政治的意思、推進役となる人材、共通の議論の場、経済的重要性を示すデータが必要だという意見がありました。

私は、生物多様性への配慮を貿易政策に盛り込むためには、環境分野の専門家だけで議論を進めることには限界があると感じました。貿易、農業、財務などの担当者と知識を持ち寄り、持続可能な生産が選ばれる条件をつくることが求められます。

保全と経済効果に加え、誰が利益を受けるのか

南アフリカのNatalie Feltman氏は、ルイボス産業などを例に、アクセスと利益配分(ABS)を資源の商業利用や取引と結びつける取り組みを紹介しました。地域社会が利益を受け取るとともに、技能を身につけ、事業者としてバリューチェーンに参加する動きが報告されました。

この点に関連して、会場のネパールの参加者から、先住民及び地域社会(IPLCs)、女性、若者、障害のある人など、脆弱な立場の人々に対する貿易の影響が、十分に議論されていないのではないかという指摘がありました。

登壇者からは、法制度の整備や、資源を守ってきた人々に利益が届く仕組み、企業と地域社会の協働の重要性が示されました。一方、それぞれの立場の人々が直面する課題について、個別の具体策まで深く議論されたわけではありませんでした。

私は、この質問によって、貿易と生物多様性の議論に社会的な公平性を組み込む必要性を改めて認識しました。環境負荷が下がり、取引による利益が増えたとしても、その費用や利益が誰に配分されるのかを確認する必要があります。地域の人々が意思決定に参加できることも含め、保全、経済、社会の側面を一体で考えることが重要だと感じました。

質疑応答中のパネリスト

 

日本の消費と海外の生物多様性を、どう結びつけて行動するか

イベントを通じて私に残ったのは、海外の生物多様性への影響を、どこまで把握し、誰の行動につなげられるのかという問いです。

貿易を介した影響は以前から研究されており、2012年の研究では、日本も、生物多様性への脅威に結びつく商品の主要な最終消費地の一つとして挙げられています。これは現在の影響をそのまま示す数値ではありませんが、日本の消費と海外の生産地の問題を結びつけて考える必要性を示しています(Lenzenほか,2012)。

現在、TNFDでは、企業の上流・下流のバリューチェーンを通じた自然への依存や影響も評価の対象としています(TNFD,2024)。

ただし、評価の枠組みがあることと、個々の調達先で起きている影響を十分に把握できることは同じではありません。私は、影響の大きい地域や資源を特定した先で、企業が調達方法をどう変え、政府がどの制度を見直し、その結果として生物多様性や地域の暮らしがどう改善したのかを確認することが重要だと考えます。

日本の経済活動が海外の資源や生態系に支えられている以上、生産者に対応を求めるだけでなく、調達する企業、制度を設計する政府、消費する私たちが、それぞれの責任と役割を考える必要があります。影響を可視化する評価を、具体的な改善と、その成果の確認につなげられるのか。今後も学び、考えていきたい課題です。

また、日本人の専門家がOECDの立場から発表や討論に参加していたことも、私にとって印象的でした。生物多様性と貿易をつなぎ、国際的な政策づくりに関わる姿に触れたことは、自分の将来のキャリアを具体的に考える機会にもなりました。

参考文献

  • Lenzen, M., Moran, D., Kanemoto, K., Foran, B., Lobefaro, L., & Geschke, A.(2012). International trade drives biodiversity threats in developing nations. Nature, 486, 109–112. https://doi.org/10.1038/nature11145
  • Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)(2024). Guidance on value chains(Version 1.0, June 2024). 本文PDF
  • United Nations Conference on Trade and Development(UNCTAD)(2026年10月14日). How can developing countries benefit more from biodiversity-based trade? 記事
  • United Nations Conference on Trade and Development(UNCTAD)(n.d.). Trade in biodiversity-based products. UNCTAD Data Hub. 統計・解説ページ(2026年10月30日閲覧).

IUCN-J ユース会員 緋熊と黒潮
志村怜音