生物多様性条約第17回締約国会議(CBD COP17)は、10月26日、会期2週目に入りました。27日からは各国の閣僚級代表が参加するハイレベル・セグメントも予定されており、交渉はいよいよ終盤に向かっています。

26日は、ネイチャーポジティブの実現に向けた資金の拡大を目指す「Finance and Biodiversity Day」として、地球環境ファシリティ(GEF)への新たな資金拠出が発表されました。一方、政府間交渉では、2030年までの生物多様性目標の達成に向けた世界全体の進捗評価(グローバルレビュー)で重要な前進がありました。

ただし、資金を誰が負担するのか、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)の利用から得られる利益をどう配分するのかなど、重要な論点では各国の立場に隔たりが残っています。

2030年目標の達成に向け、グローバルレビューで重要な前進

今回のCOP17の中心的な議題の一つが、2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」の実施状況を評価する、初めてのグローバルレビューです。GBFは、2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せることを目指しています。しかし、各国の報告や科学的な指標からは、現在の取組のペースでは目標達成が難しいことが明らかになっています。26日の交渉では、グローバルレビューの結果を今後の政策にどう生かすかについて、共同議長の妥協案が受け入れられたとのレポートがあります(IISD ENB)

この案では、行動の強化だけでなく、資金や技術、能力構築といった実施手段の提供・動員を急速に加速しなければ、2050年に向けた長期目標の達成も危うくなるとの懸念を示しています。さらに、今回のグローバルレビューに関する決定を、2030年までの取組の方向づけや優先順位づけに活用することで合意しました。

一方、レビューは各国を罰したり、一方的に評価したりするためのものではなく、実施を促進するための仕組みであることも確認されています。ただし、これは交渉グループでの合意であり、COP全体による最終的な決定ではありません。

資金動員では新たな拠出表明。一方、制度をめぐる交渉は難航

26日、GEFはCOP17において、5億米ドルを超える追加的な資金拠出表明があったと発表しました。

スペインは5,000万ユーロの拠出を表明し、ウズベキスタンは新たな資金供出国として450万米ドルを表明しました。また、英国は3億3,000万ポンドの拠出を再確認し、COP17議長国のアルメニアも、新たな供出国になる意向を示しています。次期GEF増資(GEF-9)に向けた拠出表明額は、今回の追加分を含めて約44億米ドルに近づいています。前期GEF-8の増資規模である53.3億ドルと比較すると、依然として約17%少ない水準にありますが、ウズベキスタンが新たな資金供出国となるなど、供出者の裾野を広げる動きが見られたことは重要です。GEFにおいては、気候変動枠組み条約のCOPにおいても呼びかけを強化するとしており、資金規模のさらなる拡大への期待が集まっています。

さらに、生物多様性に特化した「グローバル生物多様性枠組基金(GBFF)」にも、約6,000万米ドルの追加拠出が表明されました。ドイツ、アイスランド、モナコに加え、カナダのケベック州、ドイツのベルリン市も参加しています。このGBFFは、国からの受け入れ制度しかなかったGEFが多様なソースからの資源動員を実現する狙いで、国以外からの資金受け入れも可能になるよう調整して運用されているGEF下の基金となります。特にベルリン市は、GBFFに拠出を表明した初めての都市となりました。

これらの発表は、生物多様性保全のための資金供出を、従来の主要な先進国政府だけでなく、より多様な国や地方政府へ広げる動きとして注目されます。

一方、政府間交渉では、資金メカニズムの制度設計をめぐる対立が続いています。26日の交渉では、資金供出者の裾野をどう広げるかに関する新たな文案が示されました。また、資金メカニズムが満たすべき基準について、資金を必要とする国への直接的なアクセス、各国の主体性、先住民・地域社会、女性、ユースの参加などが議論されました。しかし、これらの点では合意に至っていません。資金拠出を増やすという前向きな動きと、資金を誰が負担し、誰に、どのように届けるかという制度的な課題が並行していることが、COP15以降の締約国会議の特徴です。

DSIとカリ基金――企業の拠出をどう促すか

もう一つの重要な交渉が、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)に関する利益配分です。DSIとは、生物のDNAなどの配列をデジタル化した情報のことです。医薬品や食品、バイオテクノロジーなどの研究開発に幅広く活用されています。COP16では、DSIの利用から得られる利益を公平に分配する多国間メカニズムと、その資金を受け入れる「カリ基金」が設立されました。

今回のCOP17では、この仕組みを実際に機能させるための制度設計が議論されています。26日の交渉では、カリ基金に拠出した企業などに発行される「証明書」が大きな論点となりました。この証明書には、企業が適切な利益配分を行ったことを示し、同じDSIの利用について追加的な金銭的利益配分を求められるリスクを軽減する役割が期待されています。

しかし、証明書を発行する条件については意見が分かれています。途上国の多くは、合意された目安となる拠出率に沿った金銭的拠出を重視する一方、先進国側からは、証明書の法的な適用範囲が不明確なことや、企業の参加を促す必要性が指摘されています。また、金銭以外の利益配分も議論されました。研究者の能力構築、技術移転、科学的協力、研究施設やデータへのアクセスなどは重要ですが、それらが金銭的な利益配分の代わりになるのかについては意見が分かれています。

IISDの報告によると、26日時点でカリ基金への実際の入金額は8,990米ドルにとどまっています。制度が設立されても、企業からの資金が自動的に集まるわけではありません。企業にとっての法的な確実性と、利益配分の公平性をどう両立するかが、交渉の中心になっています。

保護地域は「面積」から「質」へ。生態学的な連結性も議論

30by30目標に関わる保護地域作業計画の交渉でも進展がありました。GBFのターゲット3は、2030年までに陸域・内陸水域、海域・沿岸域の少なくとも30%を効果的に保全することを目指しています。しかし、保護地域の面積を増やすだけでは、自然が十分に守られるとは限りません。

26日の交渉では、生態系を代表する場所が適切に含まれていること、保護地域同士が生態学的につながっていること、効果的な管理や公平なガバナンスが確保されていることなど、保全の質を高めるための追加ガイダンスについて前進がありました。また、生態学的な連結性を保護地域作業計画の今後の活動に組み込む方向でも合意が進みました。

一方、先住民・伝統的領域(ITT)の位置づけ、人権に基づくアプローチ、資金・技術支援の対象などについては、なお意見が分かれています。

保護地域を単独の区域として考えるのではなく、周辺の生態系とのつながりや、そこで暮らす人々の権利・参加を含めて考える方向が、今回の議論で改めて重視されています。

その他の議題でも、具体的な作業をめぐる調整が進む

26日は、ほかにも多くの議題が並行して協議されました。

カルタヘナ議定書のリスク評価では、遺伝子改変魚類に関する追加的な任意ガイダンスを作成する方向で合意が進みました。

名古屋議定書の多国間利益配分メカニズムでは、今後の検討を公開作業部会で進めるのか、専門家グループ等で進めるのかについて意見が分かれています。

生物多様性と気候変動については、両者の関係に対応する短期的な取組を奨励することで合意が進みました。一方、生態系を活用した気候変動適応や防災・減災に関する政策担当者向け文書を、COPとしてどのように扱うかは未解決です。

持続可能な野生動物管理では、先住民・地域社会の参加、人権への配慮、ジェンダーに対応したアプローチなどが議論されました。また、野生動物管理のガイダンスを漁業に適用する際には、既存の漁業制度を補完するものであり、置き換えるものではないことが確認されました。

このほか、汚染と生物多様性に関する今後の作業では、プラスチックや化学物質に限定せず、あらゆる種類の汚染と生物多様性との関係を扱う方向で合意が進みました。

COP17は閣僚級交渉へ――残された課題をどう乗り越えるか

10月26日の交渉を振り返ると、グローバルレビューや保護地域の質的向上などで具体的な前進が見られました。

一方、資源動員、DSI、経済活動への生物多様性の主流化といった議題では、各国の立場の違いが依然として大きく、交渉が続いています。

こうした対立の背景には、自然保護のために必要な資金や行動を誰が負担するのか、国際的なルールと各国の制度をどう整合させるのか、先進国と途上国の間で責任や利益をどう分かち合うのかという、共通の課題があります。

27日からは閣僚級会合が始まります。技術的な文言調整だけでは解決が難しい論点について、政治的な判断が求められる局面です。

今回のCOP17が、世界の生物多様性の危機を確認するだけでなく、2030年までの残された4年間に、実際の保全行動と資金の流れを変えるための決定を打ち出せるかが注目されます。

IUCN日本委員会としても、交渉の結果だけでなく、それが日本の自然保護活動、企業・金融機関、自治体、そして将来世代の取組にどのようにつながるのかを引き続き注視していきます。


参考資料

※本記事は10月26日の交渉状況を整理したものです。交渉グループでの合意や提案は、COP全体で正式に採択された決定とは区別しています。