生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)は、10月21日、開幕から3日目を迎えました。会議場では朝から夕方、夜にかけて多数のコンタクトグループが開催され、各国が決定文書の具体的な文言について交渉を続けました。
一方、交渉会場の外では、国際自然保護連合(IUCN)などによる新たな戦略やガイドの発表も行われています。国際的な政策を決める議論と、現場での自然保護活動を支える取り組みが並行して進んだ一日となりました。
1.COP17の交渉:合意に向けた細かな調整が続く
この日の交渉は、作業部会I(WG I)と作業部会II(WG II)に分かれ、複数の議題が並行して進められました。
能力養成・科学技術協力と利益配分
午前の作業部会Iでは、能力養成・能力開発と科学技術協力に関する協議が行われました。
各国の生物多様性保全を支援する地域・準地域の技術科学協力支援センターについて、民間資金の活用や、支援センターによる共同研究を奨励するかどうかなどが論点となりました。
一方、国際的な支援活動を調整するグローバル・コーディネーション・メカニズムについては、十分な議論の時間を確保できませんでした。最終的な合意には至らず、残された論点を小規模グループで検討することとなりました。
また、名古屋議定書に基づく地球規模の多国間利益配分メカニズムについても協議が行われました。遺伝資源の利用から生じる利益を、従来の二国間の仕組みだけでは適切に配分できない場合に、どのように対応するかが課題となっています。
資金メカニズムとモニタリング枠組み
午後には、資金メカニズムと昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)のモニタリング枠組みについて協議が行われました。
資金メカニズムでは、地球環境ファシリティ(GEF)やグローバル生物多様性枠組基金(GBF基金)の役割、資金拠出の状況、今後の制度改善などが論点となりました。資金をどのように増やし、必要な国や地域に届けるかという課題は、引き続きCOP17の重要な交渉テーマとなっています。
モニタリング枠組みの協議では、通訳用イヤホンの不具合などによって開始が遅れる場面もありました。限られた時間の中で一定の進展が見られたものの、指標の取り扱いに関する第17パラグラフについては、小規模グループで引き続き調整することとなりました。
KMGBFの目標達成に向けては、各国が実施した取り組みだけでなく、自然の状態が実際に改善しているかを測定する仕組みが欠かせません。指標に関する議論は、今後の進捗評価の基盤を整える重要な交渉です。
気候変動、戦略的レビュー、海洋・沿岸生物多様性
作業部会IIでは、気候変動と生物多様性、既存の作業計画の戦略的レビューなどが議論されました。
戦略的レビューについては、決定案の一部のパラグラフを削除する方向で整理が進み、残された論点について共同議長からの提案を待つこととなりました。合意に向けて比較的大きく前進した議題の一つです。
一方、夕方に開催された海洋・沿岸生物多様性のコンタクトグループでは、実質的な進展は限定的でした。生態学的・生物学的に重要な海域(EBSA)に関する科学的な手続やガイダンスの位置づけなどについて、引き続き調整が必要となっています。
このほか、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)、条約第8条(j)に関する先住民族・地域コミュニティの課題、カルタヘナ議定書のリスク評価・管理などについても協議が行われました。
2.新たな戦略・ガイドの発表:自然保護を実践するための道具を整える
COP17は、政府間の交渉だけが行われる場ではありません。国際機関や研究者、NGOなどが、新たな知見や実践を支援するツールを発表する機会でもあります。
10月21日には、特に外来種対策と生態系復元に関する取り組みが注目されました。
IUCN全体で外来種対策を強化する新戦略
IUCNパビリオンでは、「侵略的外来種に対する世界的な行動を拡大するためのIUCN全体の戦略」が紹介されました。
侵略的外来種は、在来の動植物や生態系に被害を与えるだけでなく、人々の暮らしや経済にも大きな影響を及ぼしています。また、国境を越えて移動・拡散することから、一つの国や組織だけでは十分に対応できない問題です。
IUCNでは、1994年に種の保存委員会(SSC)の下に侵略的外来種専門家グループが設けられ、科学的な基準、データベース、対策のためのツールなどを開発してきました。
今回の戦略は、こうした専門家グループの成果を、IUCN全体の活動にさらに広げていこうとするものです。
セッションでは、外来種問題には単一の解決策がなく、政府、研究機関、企業、市民社会など、多様な主体の協力が必要であることが強調されました。
KMGBFのターゲット6では、2030年までに侵略的外来種の導入率と定着率を少なくとも50%削減することなどが掲げられています。今回の戦略は、この目標の実現に向けて、IUCNの専門知識や国際的なネットワークをより効果的に活用するための取り組みといえます。
先住民地域共同体と共に実施する生態系復元を支えるガイドの発表
もう一つの注目は、生態系復元に関するガイドの発表です。
KMGBFのターゲット2では、2030年までに劣化した生態系の少なくとも30%を効果的な復元の下に置くことが目標となっています。
しかし、生態系の復元は、単に植樹を行ったり、緑地の面積を増やしたりするだけではありません。対象となる生態系の本来の姿を理解し、復元の目標を設定し、取り組みの成果を継続的に確認することが重要です。
今回発表された生態系復元のガイドも、こうした国際目標を現場の実践につなげるという観点から注目されます。
特に、復元活動をどのように計画し、その成果をどのように測定・評価するかは、今後、日本国内で自然再生やネイチャーポジティブの取り組みを進めるうえでも重要な課題です。
3.一日の振り返り:国際的な合意と現場の実践をつなぐ
10月21日は、交渉の進み方に大きな差が見られた一日でした。
戦略的レビューのように決定案の整理が進んだ議題がある一方、能力養成やモニタリング枠組み、海洋・沿岸生物多様性などでは、引き続き小規模な協議が必要となっています。
こうした交渉では、一つひとつの言葉の選び方が、その後の国際協力や各国の政策に影響します。そのため、合意形成には時間がかかります。
一方、外来種戦略や生態系復元のガイドの発表からは、国際社会がすでに持っている科学的知見や実践の経験を、より広く活用しようとする動きが見えてきます。
国際的な目標や制度を整えることと、それを現場で実行するための知識や仕組みを充実させること。この両方がそろって初めて、ネイチャーポジティブの実現に近づくことができます。
COP17の交渉と関連イベントを通じて、今後もこの二つの動きを追っていきたいと思います。
国際自然保護連合日本委員会
会長 道家哲平























