生物多様性条約第17回締約国会議(CBD COP17)が開催されているアルメニアの首都エレバン。会議は最初の1週間を終え、週末を迎えました。
24日(土)は政府間交渉がお休みとなりましたが、25日(日)には交渉が再開され、夜まで議論が続きました。一方、会場では週末もさまざまなイベントが開催され、会場の外でも自然保護をテーマとする催しが行われるなど、COP17の熱気は衰えることがありませんでした。
週末も賑わうCOP17――交渉の枠を超えた議論が展開
24日・25日の週末には、科学、自然と文化、地方自治体、企業をテーマとするステークホルダーフォーラムが開催されました。
COPは政府間の国際交渉の場ですが、生物多様性の保全と回復を実際に進めていくためには、研究者、自治体、企業、市民社会など、多様な主体の参加が欠かせません。
各国政府や国際機関、NGO、企業などが運営するパビリオンでも、平日と変わらず多彩なセッションが開かれ、参加者が活発に意見を交わしていました。その内容は枚挙にいとまがないほどで、政府間交渉での合意を待つだけでなく、各分野で実践を進めるための具体的な提案が相次いでいました。
また、公式会場の外でも、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の「TNFD HIVE」や、IAPB(生物多様性クレジットに関する国際諮問委員会)による「Nature Credit Studio」などが開催され、企業や金融機関、専門家による交流が広がっていました。
IUCNパビリオン――外来種対策から科学技術協力、保護地域まで
IUCN(国際自然保護連合)のパビリオンでも、COP17のテーマ別の日程に合わせ、多彩なイベントが展開されました。
外来種をテーマとする日(24日)には、外来種対策を自然保護の課題としてだけでなく、企業や金融機関が取り組むべきリスクとして捉える議論が行われました。
特に注目されたのは、TNFDの自然関連課題の評価手法「LEAP」の改訂版(LEAP 2.0)において、侵略的外来種に関するガイダンス(付属4)がより明確になったことを踏まえた金融機関とのセッションです。外来種による生態系への影響を、金融機関によるリスク評価や投融資の判断にどう反映していくかという、新しい取組の方向性が示されました。
また、科学技術協力センター(TSCC)間の連携を進める議論や、GBFターゲット3(2030年までに陸域・海域の少なくとも30%を保全する目標)に関連したイベントも開催されました。
科学的知見や国際的な基準を、各国の政策や企業の実践につなげていくことが、IUCNパビリオンの多くのイベントに共通するテーマとなっていました。
ネイチャーポジティブ・パビリオン――国際的な枠組みの横連携が進む
ネイチャーポジティブ(NP)パビリオンでも、今後の国際的な取組を方向づける重要な議論が展開されました。
Nature Positive Initiative(NPI)が企画したセッションでは、ISSB、TNFD、SBTN、GRI、ISO、CDP、EUの企業サステナビリティ報告制度の関係者など、自然に関する情報開示、目標設定、測定、報告の枠組みを担う組織が一堂に会しました。
これまで、それぞれの枠組みが独自に発展してきましたが、企業にとっては、複数の枠組みへの対応が負担となるだけでなく、自然に関する情報をどう統合し、実際の行動に結びつけるかという課題があります。
こうした枠組みの横連携を進め、企業の行動と自然の回復を共通の方向に導こうとする動きが、今回のCOP17では一段と明確になっています。
さらにNPIは、TNFD、SBTN、GRI、ISOなどの枠組みを担う組織に加え、IUCN、WWF、バードライフ・インターナショナル、TNCなどの自然保護団体、国連海洋特使ピーター・トムソン氏や世界経済フォーラム(WEF)の海洋関係者などを集め、ネイチャーポジティブの次のアジェンダを紹介するセッションも開催しました。
自然に関する情報の測定や開示だけでなく、陸域と海洋の双方で実際に自然を回復させるために、どのような共通の取組を進めるのか。ネイチャーポジティブを国際社会の共通目標として、さらに具体化しようとする動きが見られました。
補助金改革と企業の自然測定――経済の仕組みを変える議論
NPパビリオンでは、政府間交渉でも難航しているテーマについて、さらに踏み込んだ議論が行われました。
Business for NatureとInTentが主催・共催したセッションでは、生物多様性に有害な補助金や奨励措置の改革が取り上げられました。OECDやUNDPの担当者からは、農業、漁業、化石燃料などの補助金を評価し、自然に配慮した制度へ転換する取組が紹介されました。
一方、補助金は生産者の生活や経営を支える仕組みでもあります。改革には、単なる削減ではなく、長期的な予見可能性や「公正な移行(Just Transition)」への配慮が欠かせないことが強調されました。フランス政府関係者からは、有害な補助金を減らすためのロードマップを発表する予定であることも紹介され、前向きな改革を促す議論となりました。
また、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が主催したセッションでは、自然に関する情報を企業の意思決定や行動にどう結びつけるかが議論されました。
新たな実践資料を公開した「Nature Action Portal」の紹介に加え、IKEA、Rabobank、Tetra Pak、王子ホールディングスなどの企業から取組が報告されました。
自然の状態を測定する技術や情報は増えていますが、企業の行動につなげる仕組みや、測定結果の信頼性、手法の共通化にはまだ課題があります。「完璧なデータがなくても、行動を始めるための情報はすでにある」という考え方が印象的でした。
IUCN-Jも3つのセッションを開催――熊本から世界へ
IUCN日本委員会(IUCN-J)も、この週末の2日間にわたり、IUCNパビリオンで3つのセッションを開催しました。
テーマは「サプライチェーン」「ファイナンス」「ランドスケープ」です。
これらは、2026年7月に熊本で開催されたグローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS2026)と、その成果である熊本宣言を踏まえ、ネイチャーポジティブの実現に向けた具体的な行動をさらに進めるために企画したものです。
企業のサプライチェーンを通じて自然への影響をどう改善するか。自然の保全と回復に必要な資金をどう生み出すか。そして、企業の取組や技術、データを活用し、地域や流域、森林などのランドスケープでどのような成果を生み出すか。
3つのテーマは相互につながっており、企業や金融機関、自然保護団体などが協働し、具体的な成果を生み出すことを目指しています。
そしてNPパビリオンでは、2027年10月にインドのアンドラ・プラデシュ州で第3回グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット(GNPS2027)を開催することが発表されました。
発表の場には、GNPS2026に関わった藤田香氏、主催者としてIUCN-J会長の私も登壇しました。
2026年の熊本から2027年のインドへ。ネイチャーポジティブの実現に向けた国際的な協働が、次のステージへとつながろうとしています。
日曜日は交渉再開――資金、DSI、保護地域など幅広い議題
25日(日)には、政府間交渉も再開されました。
午前10時から夜9時まで、複数のコンタクトグループが並行して開催され、資金メカニズム、グローバルレビュー、DSI(遺伝資源のデジタル配列情報)、資源動員、能力養成、気候変動、保護地域、合成生物学など、幅広い議題について協議が行われました。
コンタクトグループとは、各国の意見が分かれる議題について、合意に向けて集中的に調整を行う場です。
特に資源動員については、資金を提供する国の範囲を広げる「Contributor base(資金供出国の基盤拡大)」などの主要論点について各国が意見を交わしました。議論の進展は遅いものの、建設的な協議が続けられています。
また、DSIについては、企業からの資金供出率、カリファンドへの供出に際して企業に発行される証明のあり方、集められた資金の配分方法などが議論されました。協議は翌26日(月)の朝にも継続されることになりました。
一方、能力養成に関する議題では、ほぼ合意に至るなど、前進も見られました。
COP17は後半の交渉に向け、重要な局面を迎えつつあります。
エレバンの街でも生物多様性をアピール
25日(日)、エレバン市内の自由広場周辺では、若者たちが動物や鳥などに扮した衣装を身につけ、生物多様性の保全を訴える行進が行われていました。
大きな角を持つ野生動物や、翼を広げた鳥を表現した衣装など、工夫を凝らした姿が目を引きます。参加者が掲げていたポスターには、アルメニアの山岳地帯に生息する野生動物の写真や、希少な動植物の保護を訴えるメッセージが描かれていました。
国際会議場の中では政府や専門家が生物多様性の保全について議論する一方、街では若い世代が自分たちなりの方法で自然を守ることの大切さを発信していました。
COP17の開催が、エレバンの街や市民にも広がっていることを感じさせる光景でした。

撮影:IUCN
交渉の先を見据え、実践を進めるCOP17
この週末を通じて印象的だったのは、政府間交渉と並行して、さまざまな主体が自らの取組を前に進めようとしていることです。
補助金改革のように、政府間交渉では合意が難しいテーマについても、企業、金融機関、国際機関、市民社会が具体的な改革案を示しています。また、自然関連の情報開示や目標設定を担う国際的な枠組みの横連携も進み、自然に関する情報を実際の行動と成果につなげようとする動きが強まっています。
そして、こうした国際的な議論の一方で、エレバンの街では若者たちが自然の大切さを訴えていました。
国際交渉による合意形成と、それを待たずに進む多様な主体の実践。この両方がCOP17を動かす力となっています。
COP17はいよいよ後半へ。政府間交渉がどのような合意に至るのか、そして各国政府以外の主体による取組がどこまで具体化するのか、引き続き注目していきます。
国際自然保護連合日本委員会
会長 道家哲平























