はじめに

2026年10月、生物多様性条約COP17(10月19〜30日)が、アルメニアの首都エレバンで開催されています。会場内では、交渉の他に、様々なセッションや展示などが同時並行で開催され、人と人が話し合い、自国の事例や課題等を話し合っています。違う国、異なるバックグラウンドを持った人々が同じ言語で語り合えることは国際会議の魅力ですが、同じ経験を共有していない人同士の言葉という概念を通じた共有だと、なかなか自分事として落とし込むことや、その土地の自然や人々の生活・文化など、共有される活動・事例の背景まで理解することは難しかったりします。

例えば、同じ植樹活動でも、アルメニアでは、雨量が少なく、土地の劣化によって樹木が育たないという課題を抱えていますが、日本においては、シカの食害によって樹木が育たないという課題があります。その背景によって、課題の意味合いは異なり、乾燥度合いや土壌の状況、その土地の生態系など、実際に目で見て体験しなければわからないことも多くあります。また、その土地ごとに生物相は異なり、その生物相によって生物同士のつながりや影響の及び方は異なり、その土地を見て、生態系のつながりなどを理解しておくことは、その地域での事例を深く理解することにもつながります。国際会議に参加する際には、国際会議にただ参加するだけでなく、その土地の生態系や生きものを見ることも同じくらいに重要なことと私は考えています。

ということで、会議の合間に会場のメリディアン・エキスポ・センター周辺や宿泊したホテルの近くに合ったVictory Park(ハグタナク公園:「ハグタナク」はアルメニア語で「勝利」。第二次世界大戦の勝利を記念して作られた公園)を歩き、アルメニアの自然を観察しました。そこで見られた生きもの(ここでは野鳥を中心に)や自然について、ご紹介したいと思います。

アルメニアの自然環境

アルメニアは、黒海とカスピ海にはさまれた南コーカサスの内陸国です。国土は3万km²弱と九州の8割ほどの広さですが、典型的な山国で、最も低い地点でも標高約375m、最高峰のアラガツ山は約4,095m、平均標高は約1,850mにもなります。首都エレバンも標高約1,000mの高原の上にあり、晴れた日には国境の向こうにアララト山を望むことができます。周囲が山で囲まれた高地にあることもあり、朝7時に外へ出てもまだ薄暗く、日照時間が短いようでした。街中に植えられた壁際の街路樹の中には、光を求めて斜めに伸びているものもありました。

気候は、夏は暑く冬は寒い大陸性の高地気候で、何より乾いています。国全体の年降水量は平均500mm余りで、西部の平野では200mm程度まで下がります。エレバンの年降水量もおよそ300〜360mmと、年に1,500mmを超える雨が降る日本の4分の1から5分の1ほど。しかも雨は春に集中し、夏から初秋はほとんど降りません(一方で、10月下旬は雨が多いようで、期間中に何度か雷雨もありました)。冒頭で触れた「雨が少なく木が育たない」という植樹の課題は、この気候が背景にあります。エレバンの街路樹や公園の緑の多くは、灌漑に支えられた「人がつくった緑」です。飛行機からみたアルメニアも人里近くほど緑が目立ち、山岳地帯はほとんど茶色一色でした。アルメニアにおいて、森林は北部の比較的雨の多い山地に限られ、国土の多くは草原や岩がちの乾いた斜面でした。

このように、放っておけば森林になってしまうような日本とは、全く異なる環境のアルメニアで見つけた生きものたちを野鳥を中心にご紹介します。

アルメニアセグロカモメ Larus armenicus 

Victory Parkのアレヴィク人工湖にぽつんと1羽だけいました。カモメは同定が難しいので、見つけたときは諦めていましたが、調べてみるとアルメニアならではの鳥でした。国名を冠したカモメで、コーカサス地方や中東に生息します。繁殖地はアルメニア高原周辺に限られ、アルメニアのセヴァン湖やアルピ湖が重要な繁殖地だそうです。セヴァン湖の「カモメ島」は繁殖地を守るための保護区になっていて、アルメニア国内のレッドリスト(VU)にも載っています。

グリーンゾーンでは、セヴァン湖での保全活動が紹介されていました。セヴァン湖は水位が下がってきているそうです。過去には水位が下がったことで、カモメ島が陸続きになり、ノイヌやキツネが営巣地へ侵入し、卵やヒナを食べてしまう被害もありました(参照)。

シラコバト Streptopelia decaocto decaocto

全身が淡いベージュ灰色で、首の後ろに細い黒い半月模様、赤い目のハトで、公園内の歩道を普通に歩いていました。日本では、江戸時代に狩猟鳥などとして人為的に移入されており、埼玉県東部を中心に局所的に生息しています。埼玉県では県民の鳥にも指定され、国の天然記念物にもなっており、大切にされています(埼玉県出身の私ですが、人生初シラコバトはなぜか石垣島でした)。日本では、数が減っているため、見られたらラッキーな鳥です。一方、ユーラシア西部では20世紀に爆発的に分布を広げているようです。

モリバト Columba palumbus

朝方の逆光でほぼシルエットですが、他のハトよりも大きく、首の横の白い斑、黄〜橙色のくちばし、ずんぐりした大きな体からモリバトと思われます。公園内の木の上で数羽が止まっておりました。日本には分布しません。日本で森にいるハトといえばキジバトやアオバト、南の島のカラスバトですが、ヨーロッパではモリバトが一般的な大型のハトです。

ワライバト Spilopelia senegalensis

シラコバトより一回り小さく、頭から胸がピンクがかった褐色色。胸の上部に黒い斑点があり、翼の青灰色と長い尾も特徴です。名前は笑い声のように聞こえる「ククッ、クルル」という鳴き声が由来で、アフリカ・中東・インドに広く分布し、近年は都市の公園などに分布を広げているようです。日本では見られないうえに、シラコバト、モリバト、ドバトを既に見ていたので、ハトがこんなに多様とは思わず、シラコバトじゃないかと疑ってしまいました。まだ鳴き声をきけていないので、今度は実際に聞いてみたいです。

ハクセキレイ(基亜種タイリクハクセキレイ)Motacilla alba alba 

基亜種タイリクハクセキレイ(Motacilla alba alba)

日本にもいるハクセキレイですが、日本のハクセキレイとは顔の印象が違います。白い顔に黒い過眼線(目を通る黒い線)がなく、背中は明るい灰色。のどから胸は黒いよだれかけ状です。

日本で一般的な亜種ハクセキレイ♂(Motacilla alba lugens)

日本のハクセキレイは亜種 lugens で、黒い過眼線がはっきりあり、オスは背中も黒っぽくなります。西日本には過眼線のない亜種ホオジロハクセキレイ(leucopsis)もいますが、こちらはオスの背が黒。灰色の背中で過眼線のない今回の個体は、日本ではまず見ない姿です。アルメニアでは基亜種 alba と、翼の白い縁取りが幅広い亜種 dukhunensis が記録されています。写真の個体は翼の白が目立たないので、基亜種と考えられます。

日本のハクセキレイと同じように、街中のコンクリートの上をトコトコと歩いていました。

ヨーロッパシジュウカラParus major 

ヨーロッパシジュウカラ

動きが早く、木々の間をちょこちょこ動くので、ピンボケになってしまっていますが、黒い頭に白い頬、黄色みのあるお腹が見えます。かつては日本のシジュウカラと同種と考えられていましたが、分類体系の見直しによって、現在では別種として扱われています。日本のシジュウカラは、お腹は白っぽく、背中もあまり黄緑色が強くないのに対し、ヨーロッパ、胸から腹がはっきり黄色になっています。鳴き声は日本のシジュウカラそっくりです。街中ではあまり見られず、早しのある公園などすこし自然度の高い場所に多そうです。

カケス(コーカサス亜種)Garrulus glandarius krynicki 

翼の青と黒の縞模様(雨覆)でカケスとわかります。注目は頭で、真っ黒な帽子をかぶったように見えます。これはコーカサス〜トルコ北部の亜種 krynicki の特徴です。日本のカケス(亜種 japonicus など)は、額から頭頂が白っぽく黒い縦斑が入った「ごま塩頭」で、目のまわりも黒っぽい精悍な顔つき。羽の青い模様は共通なのに、顔周りの色合いが全く異なり、別種の鳥に見えます。カケスには、30ほどの亜種が存在するようです。日本では山や森の中で見かけることの多いカケスですが、アルメニアでは広めの林のある公園(Victory Park)で見られました。

日本のカケス(Garrulus glandarius japonicus)

ズキンガラス Corvus cornix sharpii

アルメニアで一番よくみる鳥、第一位です。頭・のど・翼・尾が黒く、背中からお腹が灰色。黒い頭巾をかぶったように見えるのが名前の由来です。かつてはハシボソガラス(Corvus corone)の亜種とされていましたが、2002年ごろから別種として扱われるようになりました。両種が接する地域では交雑も起きるそうです。真っ黒なハシボソガラスに対し、見た目が結構違うので、驚きです。日本のハシボソガラスのように草地におりて、地面を歩いている姿はあまり見ておらず、住宅地の高いところでたたずんでいるのが目立ちます。まだ観察できていないのか、それとも、日本のハシブトガラスのニッチも彼らが占めているのでしょうか。

ニシコクマルガラス Coloeus monedula 

ハトほどの大きさの小型のカラスで、灰色の後頭部と、白っぽい水色の目が特徴。日本で見られるコクマルガラス(Coloeus dauuricus)と同じように、アルメニアの他のカラス類と比べると小さくかわいらしいです。写真のように樹洞や建物のすき間に巣を作り、つがいでいることが多い鳥です。撮影する直前も樹洞から頭をひょっこりと出していました。日本でも見られるコクマルガラスは、農耕地のミヤマガラスの群れの中で見かけることが多いですが、ニシコクマルガラスは、樹林や住宅街でズキンガラスに交じっていたり、他のカラスからは独立して動いていることも多いです。

カササギ Pica pica 

長い尾に、白黒のツートンに見えますが、よく見ると風切り羽などが光の加減で青緑に反射して美しいです。こんな見た目をしていますが、実はカラスの仲間です。エレバンでは公園や街中でごく普通におり、日本にも九州北部に生息しています。あまり知られていませんが、日本のカササギは、17世紀ごろ朝鮮半島から持ち込まれたとされています(参照)。公園では、ドングリを加えて、切り株の根元に隠している個体が観察できました。

シリアアカゲラ Dendrocopos syriacus

一見アカゲラですが、エレバンの公園で普通に見られるのは近縁のシリアアカゲラです。アカゲラは頬の黒線が後頭部までつながり、白い頬が黒く囲まれるのに対し、シリアアカゲラは黒線が後ろへつながらず、顔の白い部分が広いのだそうです。日本のアカゲラ(亜種 japonicus など)は森の鳥ですが、シリアアカゲラは、公園・果樹園・並木など人の暮らしの近くにも生息しています。日本でいうコゲラのような存在です。観察している間もあまり人の気配を気にしていないようで、地面すれすれまで下りてきていました。

チョウゲンボウ Falco tinnunculus

会場まで歩いていたところ、ふと空にインコのような飛翔をする鳥が目に入りました。インコかと思いましたが、しばらく見ていると周辺を旋回していて、飛翔形もどこか猛禽類っぽい。写真によってみると、やはりインコとは顔つきが違い、分類的に近いハヤブサ類と考えられました。10月下旬のエレバンには、通年チョウゲンボウがいるようなので、都市環境で見られる点からもチョウゲンボウの可能性が高そうです。

ニシクロウタドリ Turdus merula(オス)

全身真っ黒にオレンジ色のくちばしとアイリング。成鳥オスです(メスはアイリングがなく、全身こげ茶っぽい見た目をしています)。大体2~3羽で行動していて、ツグミの仲間らしく、キョンっというようなひねりのある声で街中や公園の木々の中で鳴いていました。

かつてはユーラシアに広く分布する1種「クロウタドリ」とされていましたが、現在は中国など東アジアの個体群が別種 Turdus mandarinus(英名 Chinese Blackbird)に分けられ、和名「クロウタドリ」はこちらに、ヨーロッパ〜西アジアの Turdus merula には「ニシクロウタドリ」が使われます。日本でときどき記録される迷鳥の「クロウタドリ」は東アジア側の鳥と考えられ、エレバンの鳥とは別種だそうです。

イエスズメ Passer domesticus

私たちのよく知るスズメ(Passer montanus)は、頬の黒い斑点があり、オスとメスが同じ色ですが、イエスズメにはなく、顔の周りが全体的に黒っぽく、雌雄で色が違い、メスはスズメというよりホオジロに似ています。写真はオスで、栗色の側頭部、白っぽい頬、のどから胸の黒いよだれかけ状の模様があります。アルメニアではイエスズメが普通の「スズメ」で、カスケードなど町の街路樹の中からかわいらしい鳴き声が聞こえてきます。

イワシャコ Alectoris chukar

コジュケイほどのサイズ感で、灰褐色の体に、目からのどを囲む黒い首輪、脇の太い黒と栗色の縞、赤いくちばしと脚が特徴の鳥です。岩の多い乾燥した斜面を好む地上性のキジの仲間で、エレバン郊外の荒れ地でも見られます。名前は「チャカー、チャカー」と聞こえる鳴き声に由来します。日本では見られない鳥なので、初日に発見した際には、異国の地に来たことを思い知らされました。岩の上を器用に登り降りし、意外と岩場の中にいると溶け込んで見つかりません。群れで移動していました。

まとめ

ここにあげた野鳥以外にもミヤマガラスやドバトを確認しています。よって、10月26日時点で、街中だけでも計17種の野鳥が確認できました。日本でも普通に見られる種そのものは3種(ハクセキレイ・カケス・チョウゲンボウ、いずれも亜種は別)だけでした。残りは日本にいない種、日本では珍しい種、移入種、または分類上の別種です。日本では、ヒヨドリやムクドリがいますが、ここには近い分類の種はおらず、カラスの仲間(ズキンガラス、ニシコクマルガラス、カケス、カササギ)が目立ちました。小鳥のバリエーションも少なそうです。一方で、ハトのバリエーションは豊かで日本との違いが面白かったです。

街中では、コーカサスリスも見られ、シリアアカゲラが樹に穴を開け、それらをニシコクマルガラスやコーカサスリスが利用するのだろうと思います。また、アルメニアの街中には普通にノイヌやノネコが多数暮らしています。アルメニアセグロカモメの例のように、ノイヌやノネコがいることによる生態系への影響も大きいと考えられます。そんななかで、アルメニアの生きものたちは、どのような関係性を築き上げてきたのか、今後も注意深く観察していきたいと思います。

日本とは異なる背景のアルメニアの自然環境への理解を深める機会になりました。こうした「生きもの同士」や「生きものと人」のつながりを見つめ、現場の保全活動へとつなげていきたいと思います。

 

IUCN日本委員会
稲場一華