生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)に、IUCN-Jのインターンとして参加しています。

国際会議では、とにかくたくさんの略称に出会います。機関も枠組みもツールも頭文字で呼ばれ、何が何だか分からなくなることもしばしばです。IUCN(国際自然保護連合)のパビリオンで紹介されていた「RHINO」も、その一つでした。「サイ?」と思いながら話を聞き、後で調べてみると、企業の自然保護のあり方を変えうる面白い仕組みでした。今回は、このRHINOを紹介します。

RHINOが生まれた背景

企業がネイチャーポジティブ(自然の損失を止め、回復に転じさせること)に貢献するには、大きく2つのステップが必要です:
① 自社と自然の関わりの現状を把握すること。
② 現状を踏まえて、適切なアクションをとること。

①のための方法を示しているのが、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。TNFDは、企業が自然への依存や影響、そこから生じるリスクを、「LEAP」と呼ばれる手順(発見・診断・評価・準備)で整理し、投資家に開示するための提言を発表しています。

一方、②のための道具はありませんでした。現状が分かっても「具体的に何をすればよいのか」は分かりません。また、たとえ行動したとしても「その行動で自然はどれだけ良くなったのか」を測るすべがありません。実際、企業の保全活動の成果は、「植えた木の本数」「駆除した外来種の数」など、バラバラの物差しで示されてきました。この②を埋めるためにつくられたのが、IUCNが2025年10月に発表したRHINOです。

RHINOとは

RHINOは、企業が自然保護の取り組みを計画し、その効果を測るための手順と物差しをまとめた、いわば「マニュアル」です。名前は「Rapid High-Integrity Nature-positive Outcomes」の頭文字で、「自然の回復につながる成果を、信頼できる形ですばやく生み出そう」という意味が込められています。RHINOの手順に沿うと、次の3つを一貫して明らかにできます。

  • 取り組むべき場所:自社の事業のどこが、絶滅のおそれのある生き物の生息地と重なっているか
  • とるべき対策:その場所で絶滅リスクを高めている一番の要因は何か(つまり、何に手を打てばよいか)
  • 対策の効果:その対策が、生き物の絶滅リスクをどれだけ下げたか

特に重要なのが3つ目です。取り組みの効果を共通の数値で表すため、企業は自社の行動が、世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の「絶滅リスクを下げる」という目標にどれだけ貢献したかを示せます。

RHINOには、企業と自然の関わり方に応じて、3つの進め方(トラック)が用意されています。

  • トラックA(直接影響トラック):自ら事業地を管理し、そこで自然に直接影響を与える企業向け。インフラや再生可能エネルギーの開発、農作物や木材の生産、資源開発など
  • トラックB(バリューチェーン影響トラック):原材料の調達を通じて自然と関わる企業向け。原材料を集めて加工する企業、消費財メーカー、小売・卸売など
  • トラックC(投資影響トラック):投融資を通じて自然に影響を与える企業向け。金融機関、投資家、保険会社など

トラックBとCはまだ開発の途中にあるため、このブログではトラックAに絞って説明します。トラックAの手順は、TNFDのLEAP(発見・診断・評価・準備)を土台に、「実行」と「報告」を加えた6つのステップで構成されています。

RHINOの仕組み

RHINOで用いる物差しは、STARという指標です。IUCNレッドリストのデータをもとに、「その場所で脅威(森林伐採や狩猟など、生き物が減る原因)を取り除いたときに減らせる絶滅リスクの量」を点数で表します。点数は、その場所にいる絶滅危惧種ごとに次の3つを掛け合わせ、全種分を足し合わせて求めます。

① その場所が占める生息地の割合 × ② 絶滅のおそれの大きさ × ③ その脅威が減少要因に占める割合

②はレッドリストのランクに応じた重みで、準絶滅危惧(NT)=1から絶滅危惧IA類(CR)=4まで、危険度が高いほど重くなります。目安として、1種あたりの点数は最大400点です(絶滅危惧IA類:CRの種について、世界中ですべての脅威を取り除き、絶滅のおそれがない状態に戻した場合)。式で求めた点数を脅威ごとに計算し、すべての脅威の分を足したものが、その場所全体の点数になります。合計点数が大きいほど、その場所での対策が、世界全体の絶滅リスクを下げることに大きく貢献するということです。

実際には、この計算は世界中を1km四方のマス目に区切ってあらかじめ行われており、その結果がIBATというツールで公開されています。企業は、自社の事業地にかかるマス目の点数を合計し、その内訳から、どの脅威に手を打てば効果が大きいかを知ることができます。ただし、これは世界規模の地図から出した推定値で、「推定STAR」と呼ばれます。そこで企業には、専門家の協力を得ながら自ら現地調査を行い、実際に生き物がいるか、脅威がどれほど強いかを確かめて、点数を修正することが求められます。これを「キャリブレーション(校正)」と呼びます。企業は、修正した点数(校正STAR)をもとに目標とする点数(目標STAR)を立て、対策後に実際に達成できた点数(実現STAR)を報告します。

RHINOの強みと課題

強みは、植林、外来種の駆除、排水の改善など、内容も場所も異なる取り組みを、「絶滅リスクをどれだけ下げたか」という同じ単位で比べられることです。どこで何をすれば効果が大きいかも分かるため、限られた予算の使い道を決めやすくなります。また、TNFDのLEAPを土台にしているため、TNFDに取り組む企業にとっては、開示の「次の一歩」として使いやすい仕組みです。日本は、TNFDに沿った開示を表明した企業の数が世界で最も多い国であるため、RHINOは身近な選択肢になりうるでしょう。

一方で、課題もあります。ここでは次の4つを挙げます。

  • 導入実績の少なさ:発表から1年と間もないこともあり、導入は一部の大企業(ブラジルの製紙パルプ大手Suzanoや英国の鉱業大手Anglo Americanなど)の試験段階にとどまります。実際に絶滅リスクをどれだけ下げたかを公表した例は、まだ見当たりません。
  • 対象の偏り:現在STARで評価するのに十分なデータがあるのは陸の両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類に限られ、海や川の生き物、植物や昆虫はまだ評価できません。
  • 現地調査(キャリブレーション)の体制づくりの難しさ:費用や専門人材の確保が、企業の負担になります。地域の自然に詳しい先住民族や地域住民の協力も欠かせません。
  • 第三者による確認の仕組みの不足:現地調査も点数も企業の自己申告であり、それを第三者が確かめる仕組みはまだ整っていません。

それでも、160か国以上に会員をもち、自然保護の分野で世界最大級の権威であるIUCNがこの仕組みを作った意味は大きいです。レッドリストなど長年積み重ねてきたデータに基づいているため、物差しそのものの信頼性は高いといえるでしょう。

所感

RHINOを調べて、企業が自然保護を進めるための道具が少しずつ整ってきていると感じました。TNFDで現状を把握する方法が示され、RHINOでとるべき行動とその成果が見えるようになったのです。

中でも大きいのは、企業の行動を同じ指標で点数化できるようになったことです。これまでは、「森に木を1万本植えた」企業と「島で外来のネズミを駆除した」企業のどちらが自然のためになったのか、比べようがありませんでした。同じ物差しがあれば、企業は効果の高い取り組みを選べ、投資家や消費者も取り組みを比べて評価できます。

ただし、物差しが共通でも、測るのが企業自身である以上、調査のやり方によって数字が変わる余地は残ります。点数が信頼されるには、調査の方法やデータを公開し、外部の目で確かめられるようにすることが重要だと感じました。

また、現地調査には地域の人々の協力が欠かせませんが、地域とのつながりの弱さはCOP17全体を通しても話題になっていました。中でも主流化に関する議題では、生物多様性条約(CBD)の事務局が、企業などの取組事例を収集・公開する方向で議論が進んでいます。こうした仕組みを通じて、CBDがIUCNとも協力しながら企業と地域社会をつなぐ役割を果たせれば、企業はより取り組みやすくなると考えます。

現地で繰り返し耳にしたのは、「完璧な手法や基準が揃うのを待っている時間はない。今、動かなければならない」といった言葉でした。RHINOは、まさにこの考えを形にした仕組みだと感じます。海や川の生き物や昆虫のデータが足りないように、RHINOはまだ完成形ではありません。それでも、今あるデータと科学で、生物多様性を守る行動を前に進めることはできます。IUCNも、RHINOの目的を「今ある最良の科学を使い、企業などが今すぐ、信頼できる形で、測れる行動をとれるようにすること」としています。完璧を待たずに動き出さなければならないほど、生物多様性の損失は差し迫っている―RHINOからは、自然保護の最前線に立つ人々のそんな覚悟を感じました。

筑波大学大学院/IUCN-Jインターン
福井涼士

参考資料

(全て2026年10月27日閲覧)