アルメニアの首都エレバンで開催されている生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)は、10月23日で会期5日目を迎えました。
この日は、日中の作業部会で各議題の交渉が続いた後、夜7時半から一週間の成果を振り返る本会議が開かれました。そこで、生物多様性条約と二つの議定書に関する合計14件の決定が正式に採択され、COP17の成果が形になり始めました。
一方、資金メカニズムや農業と生物多様性など、重要な論点では引き続き意見の違いが残されています。会議の外でも、企業や金融機関によるネイチャーポジティブの実践に向けた動きが活発になってきました。
14件の決定を採択――実施を支える仕組みづくりが前進
23日夜の本会議では、これまでの交渉で合意に至った決定案が次々と採択されました。内訳は、遺伝子組換え生物などの安全な取り扱いを定めるカルタヘナ議定書関係が8件、生物多様性条約本体が4件、遺伝資源の利用と利益配分に関する名古屋議定書関係が2件です。
カルタヘナ議定書では、遺伝子組換え生物(LMO)の検出・同定、情報共有、モニタリング、資金メカニズム、国内法制などに関する決定が採択されました。生物多様性条約では、ジェンダー行動計画、情報共有の仕組み、教育・普及啓発、侵略的外来種に関する決定が採択されています。一部の文言については、直前まで意見の違いがありましたが、本会議前の非公式協議で調整が進められていたこともあり、採択は全体として円滑に進みました。
COP17の大きな争点は残されたままですが、会議前半の成果として重要な一歩となりました。
外来種対策が正式決定に――科学的知見を現場の行動へ
今回採択された決定の中で、特に注目したいのが侵略的外来種に関する決定です。侵略的外来種は、生物多様性の損失を引き起こす主要な要因の一つです。昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)のターゲット6では、外来種の侵入経路の特定と管理、侵入・定着の予防、優先地域での根絶や管理などが求められています。COP17では、外来種に関するデータの収集・共有、早期発見、モニタリング、管理能力の強化、技術協力などについて議論が進められてきました。
23日の本会議では、途上国を中心とする技術移転の促進に関する条項から、「相互に合意した条件で(on mutually agreed terms)」という文言を削除することで合意し、決定が採択されました。
外来種対策では、侵入してからの駆除だけでなく、侵入の予防、早期発見、迅速な対応が重要です。今回の決定を、各国の具体的な取り組みへどうつなげるかが問われます。事務局への新しい作業として難色が示されたと聞いていた「早期発見措置を構築するための科学的ガイダンス作成」も正式に事務局タスクとして位置付けられました。
IUCNも、外来種に関する専門家ネットワークやデータベース、環境影響評価の基準などを長年整備してきました。COP17期間中には、IUCN全体で外来種対策を強化する新たな戦略も発表されています。さらに、10月に公表されたTNFDのLEAPガイダンス第2版では、企業活動が外来種の侵入・拡大に与える影響や、その予防・管理について具体的な評価方法が示されました。外来種問題は、自然保護の専門家や行政だけでなく、物流、建設、農業、観光など、幅広い産業の活動とも関係しています。国際的な政策、科学的な知見、企業や地域の実践を結びつけることが、今後ますます重要になります。
教育・普及啓発の決定も採択――女性やユースの参加を重視
生物多様性の教育・普及啓発に関する決定も採択されました。
この議題では、生物多様性に関する教育・普及啓発の国際的な行動計画(ドラフトという位置づけ)と、それを各国や地域で活用するための技術的・資金的支援が議論されました。本会議では、ウルグアイがパナマの支持を受けて、支援対象について先住民と地域社会だけでなく、女性やユースを明示する提案を行い、決定が採択されました。教育や普及啓発を充実させるだけでなく、実際に活動を担う人々が必要な支援を受けられるかどうかが、今後の課題となります。
資金・農業・先住民と地域社会――重要な交渉は続く
一方、日中の交渉では、引き続き難しい議題が残されました。
資金メカニズムでは、昆明・モントリオール生物多様性枠組基金(GBF Fund)について、資金の拡充や、支援をまだ受けていない国々への対応が議論されました。資金の拠出額や実際の払い込み状況を、資金源ごとに明らかにすることなどでは合意が進んだものの、基金の運営に関する調整は続いています。
農業と生物多様性の議題では、土壌生物多様性の保全・回復・持続可能な利用を各国の政策に組み込むことや、農業・環境・保健分野の連携、土壌モニタリングの改善などで進展がありました。しかし、土壌生物多様性に関する研究やモニタリングを誰が資金的に支援するのか、また、生物多様性に悪影響を与える補助金をどのように見直すかについては、意見がまとまっていません。
さらに、先住民と地域社会の参加を進める新たな補助機関についても、その運営方法や共同議長の位置づけなどをめぐって協議が続いています。
自然保護の重要性そのものには広く理解があっても、資金負担や制度の具体的な設計になると、各国の立場の違いが表れる。 COP17の交渉は、こうした課題を改めて浮き彫りにしています。
COP18開催国は未決定――エクアドルとパナマが協議へ
本会議では、次回COP18の開催地についても報告がありました。
当初は、エチオピア、エクアドル、パナマの3か国が開催の意向を示していましたが、エチオピアはCOP18への立候補を取り下げ、次々回のCOP19の開催に関心を示しました。残るエクアドルとパナマはいずれも中南米の国です。ジャマイカから、地域内で協議を続けたいとの発言があり、議長も了承しました。
次回の合同本会議は10月28日に予定されていますが、交渉の進行によって日程が変更される可能性もあります。
企業・金融の議論も活発に――週末に向けて広がるCOP17
COP17の会場内外では、企業や金融機関によるネイチャーポジティブの実践に向けた動きも活発になっています。前日の22日には、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が自然関連情報開示に関する新たな提案を公表し、意見募集を開始しました。
これに関連して、ISSB、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)、NPI(Nature Positive Initiative)などが参加するイベントも開催され、自然に関する情報を企業経営や金融の意思決定にどう活用するかについて、議論が進んでいます。
さらに、23日および明日(週末)には主要会場のメリディアン・エキスポセンターの外でも、TNFD主催の「TNFD HIVE」などのイベントが予定されています。
企業や金融機関にとって、自然関連のリスクや影響を把握し、情報を開示するための枠組みは急速に整備されつつあります。ただし、情報開示は目的ではなく手段です。企業の事業活動や投資判断が変わり、自然への悪影響が減少し、自然の状態が実際に改善することが重要です。政府間交渉と並行して、企業や金融機関がその変化をどのように生み出すかという議論が進んでいることも、今回のCOP17の特徴の一つです。
10月23日を振り返って
COP17の5日目は、14件の決定が採択され、会議前半の成果が具体的な形になった一日でした。
外来種対策や情報共有、教育・普及啓発、バイオセーフティなど、国際目標の実施を支える仕組みづくりが進んでいます。一方で、資金負担や補助金改革、先住民と地域社会の参加のあり方など、重要な論点では引き続き調整が必要です。また、会議場の外では、企業や金融機関による自然関連情報の活用や、ネイチャーポジティブの実践を促す動きが広がっています。国際的な合意を、自然の状態を改善する具体的な行動へとつなげられるか。 COP17の後半に向けて、政府、企業、金融機関、地域社会のそれぞれに問われている課題です。
24,25日の土日も、国際会議場や周辺のホテル等ではCOP17関連イベントや一部の交渉が行われる予定です。
国際自然保護連合日本委員会
会長 道家哲平






















