生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)に、IUCN-Jのインターンとして参加しています。今回は、サイドイベント「Trash to Treasure: Community-Led Circular Economy for Marine Plastic Recovery, Biodiversity Protection and Green Jobs」(ゴミを宝に:地域主導の循環型経済による海洋プラスチックの回収、生物多様性の保護、グリーン雇用)の内容を紹介し、そこから考えたことをまとめます。

循環型経済とは

このイベントのテーマは、ゴミをゴミとして捨てず、資源として巡らせる「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」です。

これまでの経済は、資源を掘り出し、製品をつくり、使い終わったら捨てるという「一方通行」の仕組みでした。これに対して循環型経済は、そもそも廃棄物が出にくいように製品を設計し、使い終わった製品や素材を回収して再び使うことで、資源をできるだけ長く経済の中で巡らせる考え方です。

循環型経済は、生物多様性を守るうえでも重要です。国連環境計画(UNEP)の国際資源パネル※1は、資源の採掘と加工が、世界の生物多様性の損失と水不足の90%以上の原因になっていると推計しています。資源を繰り返し使えば、新たな採掘を減らし、森林や湿地などの生息地が開発される圧力を抑えることにつながります。

※1 国際資源パネル(IRP):2007年にUNEPが設けた、各国の科学者からなる専門家会議。世界の資源の使い方と、それが環境に与える影響を評価し、政策づくりに役立てています。

また、ゴミが自然の中に流れ出ること自体も大きな問題です。UNEPによれば、毎年約1,100万トンのプラスチックごみが川や海などの水環境に流れ込んでおり、海の生き物がプラスチックを飲み込んだり、漁網などに絡まったりする被害が起きています。

生物多様性条約の世界目標である昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)でも、ターゲット7で「プラスチック汚染の根絶に向けて取り組むこと」、ターゲット16で「廃棄物の発生を大幅に減らすこと」が掲げられています。

ところが、世界経済で使われる資源のうち、再生された資源が占める割合は6.9%(2021年)にとどまり、むしろ下がっています。なぜ循環型経済はなかなか実現しないのでしょうか。

循環型経済を実現するうえでの4つの課題

イベントでは、世界銀行のValerie Hickey氏が、循環型経済の実現を阻んでいる課題を4つ指摘しました。

① 政策の不在と矛盾

1つ目は、政策の問題です。Hickey氏は次のように述べていました。

「化石燃料補助金によって、バージンプラスチック※2が再生材より安い状態になっている。この現状を変え、拡大生産者責任や公共調達を通じて再生材の需要を生み出すべきだ」

※2 バージンプラスチック:石油や天然ガスなどの化石資源から新たにつくられたプラスチックのことです。

プラスチックの多くは石油や天然ガスからつくられます。政府が化石燃料に補助金を出していれば、その分だけバージンプラスチックが安くなります。一方、再生材は回収や選別、洗浄に手間がかかるため、価格で勝ちにくくなります。循環型経済を推進する一方で、それを妨げる政策も続いているという矛盾があるのです。

備考:国際通貨基金(IMF)によると、2022年に世界の政府が化石燃料に直接出した補助金は約1.3兆ドルにのぼります。プラスチックの生産そのものを優遇する例もあります。たとえば米国ペンシルベニア州は2012年、シェル社の石油化学工場を誘致するために、最大25年間で約16.5億ドルの税額控除を設けました。

その解決策として挙げられたのが、拡大生産者責任※3と公共調達です。公共調達とは、国や自治体が公共事業などで物やサービスを購入することです。そこで再生材を買うように定めれば、安定した需要が生まれます。

※3 拡大生産者責任(EPR):製品をつくった企業が、その製品が使い終わって廃棄された後の回収やリサイクルについても、費用や責任を負うという考え方。

② 物理的インフラと人的インフラの不足

2つ目は、インフラの不足です。ここでいうインフラには以下の2種類があります。

  • 物理的インフラ:集めた廃棄物を選別し、リサイクルできる状態にする施設や、再生材をつくる工場がこれにあたります。
  • 人的インフラ:廃棄物を拾い集め、仕分け、運ぶといった作業を担う人材と、その人たちが安全に働き続けられる体制(雇用、賃金、技能など)を指します。

多くの途上国では、この人的インフラの役割を、行政や企業と正式な契約を結ばずに働くインフォーマルな廃棄物回収労働者が担っています。「世界の7,400万人のインフォーマルな廃棄物回収労働者が、低賃金・無給・不衛生な状況に置かれている。循環型経済の土台である彼らを支援する必要がある」と、Hickey氏は語っていました。

③ 需要と供給の不一致

3つ目は、再生材としての廃棄物の供給と、それを使いたいという需要の不一致です。この不一致は、両方向に起きています。

一つは、需要が追いつかないケースです。廃棄物を集めても、地域にそれを受け入れて再生する工場がなければ、行き場がありません。これは、②の物理的インフラの不足とも重なります。

もう一つは、供給が追いつかないケースです。たとえば、ペットボトルを再生したプラスチック(rPET※4)をめぐっては、飲料・日用品メーカーとアパレル業界などの間で奪い合いが起きています。

※4 rPET:recycled PET(再生PET)の略。使用済みのペットボトルなどを回収・再生してつくられたプラスチックです。

コカ・コーラ社は、2030年までに容器の50%を再生素材にする目標を掲げていましたが、2024年時点で主な容器に占めるrPETの割合は17%にとどまり、同年12月に目標を「2035年までに35~40%」へと引き下げました。食品や飲料の容器には衛生面で高い品質が求められるため、使える「良質なゴミ」はさらに限られます。

④ 必要な場所に資金が届かない

4つ目は、資金の偏りです。

Hickey氏によれば、「過去6年間の循環型経済への投資1,980億米ドルのうち、新興国向けは7%だけであり、サブサハラ・アフリカ全体では0.2%未満にすぎない」といいます。

プラスチックごみの海への流出は、廃棄物を回収・処理する仕組みが整っていない新興国や途上国で特に深刻です。それにもかかわらず、資金は、すでに仕組みがある先進国に集中しているのです。

各地の取り組み

イベントでは、これらの課題に対する各地の取り組みも紹介されました。

インド:建設工事で再生資材の使用を義務化(課題①)

Hickey氏は、インドの建設工事で再生資材の使用を義務づけた事例を紹介しました。2026年4月に施行された「C&D Waste Management Rules(建設廃棄物管理規則)2025」では、延べ床面積2万㎡以上の建設事業に、建設廃材から再生した資材を使うことが求められます。使用率は2026-27年度の5%から段階的に上がり、2030-31年度以降は25%となります。前項の課題①で触れたように、法律で「使う」と決めることで、再生材に安定した需要が生まれます。

備考:インドではプラスチック包装の分野でも、再生材の需要を法律から生む動きが進んでいます。2026年3月に施行された「プラスチック廃棄物管理(改正)規則2026」は、プラスチック包装の製造者、輸入者、ブランドオーナーに、包装に再生プラスチックを一定の割合使うことを義務づけました。たとえばボトルなどの硬い包装では、2025-26年度の30%から段階的に引き上げられ、2028-29年度以降は60%が求められます。

インド・ムンバイ:ごみ回収から製品化までを地域内で完結(課題②)

Khushiyaan FoundationのChinu Kwatra氏は、ムンバイでの取り組みを紹介しました。

同団体は、海岸で回収したごみを10人の廃棄物回収労働者とともに洗浄・選別しています。彼らには、公正な賃金、保険、食料支援が提供されています。また、回収から選別、再生、製品化までをムンバイで一貫して運営しており、海への流出を防いだごみは400万kgを超えたといいます。

再生したプラスチックは、学校用のベンチに生まれ変わっています。靴メーカーのSkechersの支援により、前年には360台のベンチをつくって70人の子どもを支援し、今年は目標の1,000台を上回る1,010台を届けたようです。さらに今後は、覚書(MOU)を通じて、50人の廃棄物回収労働者に新たなグリーン雇用を提供する予定だといいます。

廃棄物回収をボランティアに頼るのではなく、お金を払って人を雇っている点が印象的でした。

南アフリカ:労働者の公式登録と、雇用先への投資を同時に(課題②・③)

Hickey氏によれば、南アフリカでは、政府の公式な登録制度に廃棄物回収労働者を1万1,000人登録すると同時に、彼らを雇用できるリサイクル企業への投資も進めています。

登録すると、製品をつくった企業の側から回収の対価を受け取れるようになります。さらに、受け皿となるリサイクル企業を育てれば、集めた廃棄物の行き場も生まれます。人的インフラ(課題②)と需給の不一致(課題③)を、一度に解消しようとする取り組みです。

ガーナとインドネシア:成果連動型の資金で前払いを確保(課題④)

Hickey氏は、ガーナとインドネシアで、世界銀行が提供する「成果連動型」の資金手法によって1,400万米ドルの前払い資金を確保し、安定した品質の廃棄物を再生原料として供給できることを実証していると紹介しました。

この資金手法の仕組みは以下のとおりです:
投資家は世界銀行にお金を貸し(債券を買い)、貸している間に利子を受け取ります。この債券では、まずその利子の一部を、前もって両国のごみ回収・リサイクル事業に回します。事業がうまくいき、ごみを集めてリサイクルした実績が「プラスチッククレジット」として売れると、その売上から投資家に利子が支払われます。つまり、投資家は「ごみが減った分だけ利子を受け取る」形になります。

資金が届きにくい地域でも、「成果」を担保にすることで民間の資金を呼び込めることを示した事例といえます。

考察:自然保護の産業化

このイベントを聞きながら思い出したのが、IUCN-J会長の道家さんがインタビュー記事で語っていた「自然保護の産業化」という言葉です。道家会長は、「自然保護の産業化」と「産業の自然保護化」が同時に回っていく仕組みをつくることを、これからの10年の軸に据えています。そのうえで、次のように語っています。

「『自然保護の産業化』――つまり、自然を守る活動そのものを、ボランティアではなくきちんとした『仕事』として成立させることについては、まだ十分とは言えないと感じています。(中略)だからこそ、『グリーンジョブは立派な専門職なんだ』ということを、もっとはっきり伝えていきたいと思っています。」

「『自然を守る仕事がしたい』と思ったときに、それが現実的なキャリアとして描ける社会にしたい。きちんと報酬があり、成長の道筋があり、誇りを持って続けられる仕事として位置づけたいんです。」

今回のサブイベントのテーマである「ゴミ拾い」も、「ボランティアがやること」というイメージが強いと思います。海岸清掃と聞けば、休日に地域の人や企業の社員が有志で参加するイベントを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

しかし、今回のイベントで見えてきたのは、ゴミを拾い、分け、運ぶ人たちが、循環型経済の土台そのものだということです。その一方で、世界では7,400万人もの人が、低賃金や無給、不衛生な環境の中でその役割を担っています。土台を支える人たちが正当に評価されないままでは、仕組み全体も安定しません。

生物多様性の保全や気候変動対策を進め、循環型経済を実現するためには、こうした活動を「ボランティア」ではなく「仕事」として扱うことが大切だと考えます。ムンバイの事例のように、団体や企業が人を雇い、回収や再生の働きに見合った賃金を支払うことで、自然を守る活動が「善意の活動」から「収入につながる”立派な”仕事」へと変わり、より効果的な自然保護につながっていくのではないでしょうか。

 

筑波大学大学院/IUCN-Jインターン
福井涼士

参考資料

(全て2026年10月23日閲覧)