COP17開幕を前に、世界各国のユースがエレバンに集結
2026年10月19日から30日まで、アルメニアの首都エレバンで、生物多様性条約第17回締約国会議(CBD COP17)が開催される。
本会議の開幕に先立ち、エレバンではさまざまな国際イベントが開催されている。
その一つが、エレバン国立大学で開催された「Global Youth Summit for Biodiversity 2026」である。
会場には世界各国から若者が集まり、生物多様性の保全や回復に向けた取り組みに加え、政策決定への参画、資金へのアクセス、人権や社会的不平等など、幅広いテーマについての知見や経験が共有された。
私自身もラウンドテーブルでの議論に参加し、各国・地域の若者とそれぞれの課題や取り組みについて意見を交わした。
こうした対話を通じて考えさせられたのは、若者が自然保護にどのように貢献できるかという問いだけではない。
若者がすでに生物多様性保全の主体として活動しているなかで、その取り組みを支える社会制度や意思決定の仕組みは、果たして十分に整っているのか。
今回のサミットは、こうした問いについて、各国・地域の若者とともに考える機会となった。
世界の若者をつなぐGYBN―国際的なユース参画の現在地
今回のサミットを共同主催した団体の一つが、Global Youth Biodiversity Network(GYBN)である。
GYBNは、生物多様性条約(CBD)に関する国際的な政策プロセスへの若者の参画を推進するユースネットワークである。各国・地域の若者をつなぎながら、生物多様性政策への提言や能力開発、若者主導の取り組みの支援などを行っている。
サミットへの参加にあわせて、関係者の協力を得ながら、GYBNの幹部やアジア地域のチャプター関係者とつながり、個別に意見交換する機会を設けた。
私自身、Japan Youth Platform for Sustainability(JYPS)にて国内の政策形成過程への若者の参画や、国際会議での議論を国内の政策形成につなげるための活動に取り組んでいる。
今回の意見交換では、こうした日本での取り組みや国内におけるユース参画の現状と課題を共有するとともに、日本を含むアジア地域の若者が、国際的な生物多様性の議論にどのように関わっていけるのか、また地域内でどのような連携が可能なのかについて話し合った。
特に考えさせられたのは、アジアという地域の多様性を、国際的なユースの議論の中でどのように反映させていくかという問題である。
一口にアジアといっても、それぞれの国や地域が置かれている環境は大きく異なる。生物多様性の損失を引き起こす要因だけでなく、自然環境と人々の関係、行政制度、経済状況、市民社会の役割、若者が政策決定に関与するための仕組みも一様ではない。
例えば、若者の政策参画を考える際にも、参加機会そのものの確保が大きな課題となる地域もあれば、すでに存在する参加制度の実効性や、意思決定への影響力を高めることが課題となる地域もある。
そのため、アジア地域として共通のメッセージを形成することは重要である一方、それぞれの国や地域の経験や課題が十分に反映されることも欠かせない。
また、国際的なネットワークの中で多様な意見を共有するだけでなく、そこで得られた知見やつながりを、各国・地域の政策や具体的な取り組みにどう還元していくかも重要である。
日本や北東アジアの若者が持つ視点をどのように国際的な議論につなげ、同時に他の地域の経験から学んでいくのか。
今回の意見交換は、各国・地域が抱える課題や取り組みを共有するだけでなく、今後の継続的な対話や連携の可能性を考える機会にもなった。

資金を提供するだけで十分なのか―ユース主導の活動と意思決定権
サミットのラウンドテーブルでは、若者主導の活動に対する資金支援のあり方について、各国の参加者と意見を交わした。
世界各地で若者による環境保全や政策提言の取り組みが進められている一方、その活動を継続するための資金や人的資源は必ずしも十分ではない。
議論を通じて特に考えさせられたのは、単に資金をどのように確保するかという問題だけでなく、提供された資金を誰が管理し、その使途を誰が決定するのかという点である。
資金の配分や使途に関する意思決定権を、実際に活動を担う若者がどの程度持つことができるのかという点が議論された。
例えば、団体が活動資金を獲得できたとしても、その使途が資金提供者によって細かく指定されている場合、実際に活動を担う若者が自らの判断で必要な取り組みに資源を配分できるとは限らない。
また、複数の団体が協働して活動を進める場合には、資金の受け皿となる団体と、実際に活動を実施する団体の間で、どのように資金を配分し、意思決定権と責任を共有するかという課題も生じる。
もちろん、資金の透明性や適切な管理、資金提供者への説明責任を確保することは重要である。一方で、そうした仕組みが活動主体の柔軟性や自律性を過度に制限するものになっていないかという視点も必要となる。
ここで重要になるのは、資金の提供そのものが、必ずしも若者の主体性や組織の自律性を保障するわけではないということである。
これは、取り組んできた「Meaningful Youth Participation(意味のあるユース参画)」にも通じる問題である。
若者の意見を聞く場や活動に参加する機会を設けることは重要である。しかし、意見を述べる機会があっても、政策の方向性や最終的な意思決定に関与することができなければ、その参画には限界がある。
同様に、活動資金が提供されたとしても、その使い方や優先順位について若者自身が判断できなければ、活動の方向性を自ら決定することは難しい。
つまり、意味のある参画を実現するためには、単に参加機会や資金を提供するだけでなく、意思決定に関する権限をどのように共有し、活動主体の自律性を確保するかという視点が欠かせない。
この問題は若者の活動に限ったものではなく、国際的な生物多様性ガバナンスにおいて、地域社会や市民社会組織がどのように資源や権限にアクセスできるかという、より広い課題ともつながっている。
生物多様性は、自然環境だけの問題なのか
また、生物多様性と人権、紛争、教育、社会的不平等など、さまざまな社会課題との関係についても参加者とラウンドテーブルにて意見を交わした。
各国・地域の若者がそれぞれの経験や問題意識を共有するなかで、生物多様性の保全が自然環境そのものだけでなく、人々の暮らしや権利、社会的・政治的な状況とも深く関わっていることを改めて認識した。
しかし、人々が自然環境とどのように関わることができるかは、社会的・政治的・経済的な状況にも大きく左右される。
例えば、紛争や政治的・社会的な制約によって、地域住民が自然資源へアクセスすることが困難になる場合がある。
また、紛争や社会経済的な危機によって、教育や社会活動への投資が制限されれば、若者が環境問題について学び、政策形成や地域の取り組みに参加する機会にも影響が及ぶ。
こうした議論を通じて、自然環境と人々の関係を考える際には、単に自然が存在しているか、保全されているかだけでなく、誰が自然から恩恵を受け、誰が自然にアクセスでき、誰がその管理や利用について決定する権限を持っているのかという視点が重要であると感じた。
KM-GBFにおいても、こうした考え方は重視されている。
特にターゲット22では、先住民や地域共同体、女性、子どもや若者、障害のある人々などが、生物多様性に関する意思決定に公平かつ実効的に参画することや、情報・司法へのアクセスを確保することが掲げられている。
生物多様性の保全を進めるためには、科学的な知見に基づいて生態系の状態を把握し、適切な保全措置を講じることが不可欠である。
しかし、それと同時に、誰がその意思決定に関わり、誰の権利や生活が影響を受けるのかという問題にも目を向ける必要がある。
自然環境の保全と人権や社会的公正は、必ずしも切り離して考えられるものではない。
今回の議論は、生物多様性を取り巻く課題を、自然環境の問題だけでなく、社会の仕組みや人々の暮らしとの関係から捉え直す機会となった。
政策提言だけではないアドボカシーArtivismの可能性
今回のサミットを通じて、アドボカシーの手法の一つとして注目したのが「Artivism」である。
Artivismとは、「Art」と「Activism」を組み合わせた言葉であり、芸術表現を通じて社会課題を可視化し、人々の意識や行動に働きかける実践を指す。
生物多様性に関するアドボカシーというと、政策提言書の作成や政府関係者との対話、国際交渉での意見表明などが思い浮かぶ。しかし、政策や社会に働きかける方法は、必ずしもこうした直接的な政策提言に限られない。
音楽やダンス、絵画、演劇などの芸術表現もまた、社会に問題を提起し、人々の関心や対話を生み出すアドボカシーの手段となり得る。
特に生物多様性の問題は、科学的なデータや政策目標だけでは、その重要性や人々の暮らしとのつながりを十分に実感しにくい側面がある。アートは、こうした問題を人々の経験や感情、文化的な価値と結びつけ、専門知識や言語の違いを越えて共有するきっかけを生み出す可能性を持っている。
今回改めて考えさせられたのは、アドボカシーには多様なアプローチが存在するということである。
政策決定者に直接働きかけるだけでなく、社会の中で問題意識を共有し、これまで政策議論に関わる機会が少なかった人々の関心や参加を促すことも、社会を変えていくうえで重要な役割を果たす。
もちろん、アートによる表現が直接政策の変化につながるとは限らない。しかし、政策提言とArtivismは対立するものではなく、異なる役割を通じて相互に補完し得るものである。
若者の参画を考える際にも、既存の政策決定の場に若者が参加することに加え、多様な表現や働きかけを通じて、社会の議論そのものを広げていく視点が重要なのではないかと感じた。

COP17本会議へ―若者の声を、どのように実施と意思決定につなげるか
10月19日からは、COP17の本会議が始まる。
今回のCOP17では、KM-GBFの実施状況に関するグローバルレビューが重要な議題となる。
各国が2030年目標の達成に向けてどの程度進んでいるのかを把握するだけでなく、取り組みが遅れている分野に対して、残された4年間でどのように実施を加速させるかが問われる。
その際、若者を含む多様な主体の参画が、目標の実施や評価にどのように位置づけられているのかも重要な視点である。
KM-GBFのターゲット22では、若者を含む多様な主体の意思決定への参画が明確に掲げられている。しかし、国際的な目標として参画の重要性が確認されていることと、それが各国の政策や制度の中で実効的に保障されていることは、必ずしも同じではない。
若者が国際会議で意見を表明する機会を得ることは重要であるが、その意見がどのように検討され、政策や具体的な取り組みに反映されているのかについても注目する必要がある。
また、若者を将来の担い手として育成するだけでなく、すでに生物多様性保全や政策提言に取り組んでいる現在の主体として位置づけることも重要である。
今後の会議では、特に以下の点に注目していきたい。
- グローバルレビューと多様な主体の貢献:政府以外の主体による取り組みや貢献がどのように把握・評価され、今後の実施強化につなげられるのか。
- 意味のあるユース参画:若者の参加機会だけでなく、政策形成から実施、評価までの各段階において、実質的な意思決定への関与がどのように確保されるのか。
- 資金・能力開発・実施支援:生物多様性保全に必要な資金や技術、能力開発の機会が、地域社会や若者を含む実際の活動主体にどのように届くのか。
- 国際的な議論と日本国内の取り組みの接続:国際会議で得た知見やネットワークを、日本国内の生物多様性政策やユースの政策提言活動にどのように還元できるのか。
今回のGlobal Youth Summitを通じて、世界各地の若者がそれぞれの地域で異なる課題に向き合いながら、生物多様性の保全や回復に向けた具体的な活動を進めていることを改めて実感した。
一方で、そうした取り組みを継続し、より大きな社会の変化へとつなげていくためには、参加の機会を確保するだけではなく、意思決定への関与や、資金・制度面での支援を含めた環境整備が必要である。
COP17が、若者を含む多様な主体の参画の重要性を再確認するだけでなく、その参画を具体的な政策や行動へと結びつける機会となるか、引き続きその議論を追っていこうと思う。
嶋田恭子(Japan Youth Platform for Sustainability/JYPS)
























