COP17本格開幕、交渉の準備が整う

10月19日(月)、アルメニアの首都エレバンで、生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)の本格的な議論が始まりました。

前日18日の開会式に続き、この日は各地域グループやステークホルダーの代表による開会ステートメントが行われ、今後2週間の交渉に向けた期待や重点課題が表明されました。

開会ステートメントでは、ユース代表として登壇したアルメニアの若者が、思いが高ぶって言葉を詰まらせる場面もありました。会場は発言者が落ち着くのを温かく見守り、若い世代にとって生物多様性の未来が切実な問題であることを感じさせる一幕となりました。

本会議では、議題や会議の進行方法の採択、報告者(ラポーター)の選出、参加資格審査、補助機関の議長選出に関する手続きなども確認されました。次回COP18までの会議運営を担うビューローの選出に関しては、21日までに候補者の推薦を受け、23日の本会議で選出する方向が示されました。

また、COP18の開催国についても報告がありました。次回開催を担当するラテンアメリカ・カリブ海地域から立候補がなかったため、2025年12月に募集を全地域へ拡大した結果、3か国が関心を示していることが報告され、協議結果を次回本会議(23日金曜日予定)で検討するとの説明がありました。

各国が共有する「約束から実施へ」。しかし資金をめぐる立場には違い

各地域グループやステークホルダーの開会ステートメントで共通していたのは、昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の2030年目標に向けて、取り組みを加速しなければならないという認識です。

今回のCOP17では、各国の国別報告書などを基に、世界全体の進捗を初めて評価する「グローバルレビュー」が実施されます。目標の達成に向けて何が進み、何が遅れているのかを確認し、今後の行動につなげることが求められています。

一方で、実施を加速させるために何が必要かについては、各グループの主張に違いが見られました。

日本を含むJUSCANZグループは、グローバルレビューの結果を具体的な行動につなげるとともに、生物多様性資金の拠出基盤を広げる必要性を強調しました。特に、生物多様性条約第20条に基づく先進締約国の一覧を見直し、改正すべき時期に来ていると明言しました。EUも、国際的な生物多様性資金の拠出基盤を体系的に拡大することを支持しています。

これに対して、アフリカグループは、先進国による資金供与の約束が十分な規模と速度で履行されていないことを強調しました。2025年までに年間200億ドル、2030年までに年間300億ドルという国際資金目標の達成に向け、具体的な対応を求めています。

アラブグループはさらに明確に、資金拠出者の非自発的な拡大や、条約外の所得分類などに基づく締約国の再分類に反対する立場を示しました。

資金の必要性については共通認識があるものの、「誰が、どのような責任に基づいて資金を提供するのか」という点では、早くも大きな立場の違いが見えています。資源動員と資金メカニズムは、今回のCOP17でも重要な交渉課題となりそうです。

企業、ユース、先住民族・地域社会からのメッセージ

政府間の意見の違いに加えて、ステークホルダーの発言からも、KMGBFの実施に向けた多様な視点が示されました。

国際商工会議所(ICC)とBusiness for Natureを代表した企業セクターの声明では、企業が自然保護や再生に向けて投資やイノベーションを進めるためには、明確な国家戦略、一貫した政策、投資を可能にする条件整備が必要であると強調しました。また、生物多様性に有害な補助金やインセンティブの改革を定めたターゲット18と、企業による生物多様性への影響評価・情報開示などを求めるターゲット15の実施加速を求めました。

ユースを代表するGlobal Youth Biodiversity Network(GYBN)は、実施の遅れの背後には、社会の不平等や不公正があると指摘しました。単に資金や取り組みが足りないという問題ではなく、意思決定の権限や資源へのアクセスの不平等を是正する必要があるという、強いメッセージでした。

先住民族・地域社会を代表するInternational Indigenous Forum on Biodiversity(IIFB)は、先住民族・地域社会を単なるステークホルダーではなく、権利主体として位置づけることを求めました。特に、新たに設置された第8条(j)補助機関への実質的な参加や、保全活動のための資金への直接アクセスを重視しています。

また、市民社会の一部からは、企業による自主的な取り組みや情報開示だけでは不十分であり、生物多様性を損なう産業活動への規制強化や、経済・社会の構造的な変革が必要だという意見も出されました。

これらの発言からは、「約束を行動に移す」という共通の目標のもとでも、実施の遅れの原因や、その解決方法については多様な考え方があることがわかります。

午後から二つの作業部会に分かれて交渉開始

午後には本会議が約30分間開かれ、遵守委員会の報告など残る議題が扱われました。その後、会議は第1作業部会(WG1)と第2作業部会(WG2)に分かれ、個別議題の審議が始まりました。

ただし、初日の作業部会では、各議題について実質的な交渉を深めるというよりも、これまでの科学技術助言補助機関会合(SBSTTA)や実施補助機関会合(SBI)での議論を踏まえ、今後どのように審議を進めるかを整理することが中心となりました。

意見の隔たりがあり、さらに詳細な協議が必要な議題は、少人数の交渉会合である「コンタクトグループ」に付託されます。一方、これまでの議論を踏まえて決定文書(L文書)の検討を進められる議題については、会議室文書(CRP)として作業部会で扱うことになります。

初日に示された主な振り分けは、次のとおりです。

作業部会 コンタクトグループで扱う主な議題
第1作業部会(WG1) 資源動員、資金メカニズム、グローバルレビュー、モニタリング枠組み、能力構築・科学技術協力、他の多国間環境条約との協力、生物多様性の主流化、条約運営の効率化
第2作業部会(WG2)

保護地域、海洋・沿岸生物多様性、野生動物管理、生物多様性と気候変動、合成生物学、IPBES、作業計画レビュー、

また、第1作業部会では、第8条(j)に関する一部議題、地方自治体、ジェンダー行動計画、クリアリングハウス・メカニズム(CHM)と知識管理、コミュニケーション・教育・普及啓発(CEPA)、多年度作業計画などについて、第2作業部会では、森林、農業、外来種についてCRP文書を基に審議を進めることとなりました。

19日夜には、早速、グローバルレビュー、海洋・沿岸生物多様性、保護地域、第8条(j)に関するコンタクトグループが始まりました。

COP17では多くの議題が並行して進むため、交渉の進行管理も重要です。初日は、これから2週間の交渉を効率的に進めるための体制づくりが行われた一日だったといえます。

交渉と並行して、世界各地の取り組みや新たな知見の発信も

会議場では、政府間交渉と並行して、サイドイベントや各団体のパビリオンでのプログラムも始まりました。

例えばIUCNは、自然保護政策や気候変動対策に「生態学的完全性(Ecological Integrity)」の考え方を組み込むための新たなガイダンスを発表しました。

生態学的完全性とは、生態系を構成する種や構造、機能、自然のプロセスが健全に保たれている状態を捉える考え方です。単に保護地域の面積を増やすだけでなく、生態系が実際に健全に機能し、回復する力を持っているかを重視するものです。

今回のCOP17で行われるグローバルレビューでも、取り組みの数や制度の整備だけでなく、自然の状態が実際に改善しているかが重要な視点となります。こうした新たな知見や実践例が、交渉を支えるとともに、各国や企業、自然保護団体の活動に生かされていくことが期待されます。

これからの2週間に向けて

COP17の初日は、各国やステークホルダーがそれぞれの期待と優先課題を表明し、具体的な交渉を進める体制が整えられました。

開会ステートメントを通じて見えてきたのは、KMGBFの実施加速という共通の方向性と、それを実現するための資金の責任分担、企業活動への対応、先住民族・地域社会の権利と参加などをめぐる立場の違いです。

特に今回のCOP17は、2030年までの目標達成に向けた中間地点での評価を行う会議です。進捗の遅れを確認するだけではなく、残された期間にどのような行動を加速させるのか。そのための具体的な合意を生み出せるかが問われています。

IUCN日本委員会としても、政府間交渉の動きとともに、企業、自治体、自然保護団体、ユースなど、多様な主体による実践や協働の動きに注目しながら、現地から情報を伝えていきます。

国際自然保護連合日本委員会

会長 道家哲平