はじめに 

 こんにちは。日本自然保護協会でインターン中の大学3年生の吉田友里香と申します。熊本で開催された「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026(以下、熊本GNPS)」に参加させていただきました。2日間で約3,000人もの方が参加され、その中でもビジネスセクターによるネイチャーポジティブの実践に関して大きな盛り上がりがありました。本記事では「ビジネスとネイチャーポジティブの実践の両立」という観点からサミットについて報告します。

 本サミットの主催者は、日本自然保護協会が事務局を務める国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)と、国際的なネットワーキング組織であるネイチャーポジティブ・イニシアチブ(NPI)です。本サミットの目的は、2030年までに自然の損失を止めて回復を目指すという国際目標(昆明・モントリオール生物多様性枠組、GBF)の達成に向けた取組を加速させること。2日間のサミットでは、ネイチャーポジティブに関わるテーマについて、国や企業を超えて様々なディスカッションが行われた他、日経BP主催の「NATURE TECH!」も同時に開催されました。これらを通じて、ネイチャーポジティブの国際的な潮流から各企業の自然資本の保全や情報開示に取り組む意義を確かめ、ネイチャーポジティブがどのように新たなビジネスに繋がりうるかといった情報の共有が行われました。

参加者の3分の2がビジネスセクター 自然保護×ビジネスの盛り上がり

 今回、熊本GNPSで注目すべき点は、参加者数です。地方開催にも関わらず、2日間で2,725名もの人々が集いました。さらに、驚くべきは、参加登録者の3分の2がビジネスセクターだということです。なぜこんなにもビジネスセクターはネイチャーポジティブに関心を抱いているのでしょうか。それは、「危機感」と「ビジネスチャンス」という社会の流れの2つを象徴していると思います。以降、その詳細について私自身が体験したことを元に説明します。

危機感:「環境のため」から「事業を守るため」のネイチャーポジティブ

 企業が事業を継続させていくためには、多くの事業の基盤である自然資本の劣化を止める必要があります。旧来、ビジネスセクターにとって自然保護はコストがかかる足枷となっていました。しかし、今では「自然を率先して守らなければビジネスは継続できない」という認識が浸透し始めています。実際に、サミットに登壇されていた多くの方々やNATURE TECH!で登壇されていた方々も同じ危機感を持って、自然保護事業に取り組まれていました。

 特に印象的だった取り組みを3つ紹介します。1つ目は、キリンホールディングスです。発表ではキリンホールディングスCSV戦略部の美鳥 佳介氏が「環境だけでなくビジネスを守るために自然保護を行う」と述べていました。2つ目は、サントリーホールディングスです。自社商品を作り続けるため、水資源の保全を事業活動の必須条件と位置づけていました。3つ目は、熊本に半導体の工場を持つソニーグループの取り組みです。大量の水を使う半導体製造において、水源の枯渇は経営リスクに繋がります。そのため、ビジネスを持続させる事業戦略として、農地への冬期湛水活動などの自然保護活動を実施していました。これらの取組の発表を見聞きして「環境保全は単なる社会的貢献ではなく、ビジネスの存続を守るための重要な経営戦略である」ことを実感しました。

 

ビジネスチャンス:ビジネスが進むほど自然が豊かになる仕組み

 ビジネスセクターによる自然保護活動は、危機管理のためという側面だけではありません。新たなビジネスチャンスの獲得にも繋がっています。さらに、近年では、自然資本を活用して社会課題の解決を図るアプローチNbS(Nature-based Solutions)が浸透し始めています。NbSを事業の基盤や手法に組み込むことで、ビジネスの成長とともに自然の回復を両立することができます。ビジネスと自然保護のWin-Winの関係性です。その例として、株式会社ParamitaとLocalCoop尾鷲の「Local Coop」(三重県尾鷲市)が発表していた取り組みを紹介します。

 

 ・課題(背景)

 人口減少に伴う一次産業(林業や漁業)の衰退により、これまで人の手で維持されていた自然環境が劣化。これらによって自然災害のリスク上昇や行政サービスの限界といった地域課題が発生。

 ・ソリューション(解決策)

 企業のネイチャーポジティブ関連事業の新規開発やESG投資獲得に向けた企業価値の向上を望むような複数企業から資金を獲得。地域住民や企業と連携し、生態系回復を目指す森づくりを企業と自治体とで共同で推進。

 ・成果

 尾鷲市の私有林から年間約6500t-CO2のカーボンクレジットを創出。人工林での生物多様性の回復や藻場の面積増加を確認。

 

 この事例のように、地域で生まれた課題に対して自然資本を活かしながら課題解決と自然保護を行うことは可能です。限られた資本の中で、自然保護だけに焦点をあててアプローチすることは事業の持続性とコストパフォーマンスに欠けます。しかし、課題解決と自然保護を掛け合わせ、ビジネスが進むほど自然環境も豊かになっていく仕組みをつくることが可能です。NbSは、事業を行う側にとっても自然にとってもポジティブな結果を生み出す鍵になることを学びました。

ビジネスポジティブを通してネイチャーポジティブを実装する

 大学で環境平和学を学ぶ私は、「私たちの健康的な生活の基盤である自然環境をまもりたい」という気持ちを抱くようになり、日本自然保護協会の 「暮らしを支える自然の豊かさを守り、その価値を広め、自然とともにある社会を実現する」という理念に共感し、インターンに応募しました。

 熊本GNPSでは、社会の流れを握っているビジネスセクターが各事業の中で「自然をどのように位置づけているのか」「自然保護とビジネスは両立できるのか」という問いをもって参加しました。現場で目にしたのは、「自然資本の劣化」というリスクに対し、旧来のビジネスモデルを脱却して前向きに挑む企業の姿でした。ビジネスセクターの中で、自然保護は、「持続的なビジネスの基盤を守る未来への投資」として位置づけられ始めています。もし今、「ビジネスと自然保護の両立なんて本当にできるのだろうか」と葛藤や難しさを感じている方がいたら、ぜひ伝えたいです。ビジネスの力を通して、自然を守り、再生させていくことができるのだと。サミットで目の当たりにしたネイチャーポジティブを中軸とした取り組みの賑わいが、この記事をお読みいただいたみなさんの一歩を後押しするものとなれば幸いです。

 

日本自然保護協会インターン
吉田友里香