ナイロビで開催されている生物多様性条約の第28回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA-28)のサイドイベントでは、OECMs(Other Effective Area-based Conservation Measures/保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)の取り組みの最新状況が紹介され、政府や専門家の間で活発な議論が展開されています。

30by30の実施手段として注目される「OECM」

昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)の23のターゲットのうち、最も認知されているもののひとつが、30by30と称される「ターゲット3」です。これは、2030年までに、陸域・内陸水域、海域・沿岸域の少なくとも30%を、特に生物多様性と生態系機能・サービスにとって重要な地域を中心に、効果的に保全・管理することを目指すものです。

なぜ保全される区域を拡大する必要があるのかというと、森林や湿地・沿岸域などの自然環境の開発や土地・海域利用の変化が、生物多様性の損失の主要な要因となっているためです。人間活動により種の絶滅速度が自然の状態の数百から数千倍規模に高まっていると指摘される中で、自然で健全な生態系を「エリア(区域)」として守っていくことは、有効な手段です。

こうしたエリアの保全で、これまで中心的な役割を担ってきたのが、国立公園などの「保護地域」です。保護地域は、通常、自然や野生動植物を守ることを目的に指定・管理され、程度の差はあるものの、開発、狩猟・採集、伐採、漁業などの活動が制限されます。

しかし、人口が増加を続け、食糧供給や経済活動の需要が高まる中で、保護地域の拡大だけに頼ることには限界があります。また、法的に保護地域に指定はされていない場合でも、民間の主体や先住民と地域社会(IPLC)などによって、自然を守りながら伝統的に利用・管理が行われている土地や海域も多く存在します。

このため、30by30の達成に向けて、保護地域以外で、生物多様性保全に寄与するエリアとして、OECM が注目されています。

OECMは、保護地域とは異なり、必ずしも保全を主目的として設定・管理されている必要はありません。一方で、その区域の管理を通じて、生物多様性保全にとってプラスとなる長期的な成果がもたらされていることが求められます。このため、各国・地域の状況に応じて、さまざまな形態が想定されています。

OECMを国内でどのような制度・基準のもと認定していくのか、どこに設定すべきなのか、権利保有者や、地域住民、ステークホルダーのコンサルテーションや関与をどのように進めていくのか。多くの国で実践が始まり、国際機関によるガイダンスの提供や、関係国・関係主体・専門家の間での知見共有、課題の議論が活発化しています。

SBSTTA-28でも、OECMに関するさまざまなサイドイベントが開催されています。

すべてに参加することはできませんが、このうち、農業、林業、漁業などの生産活動が行われているランドスケープ・シースケープでのOECMに関する下記2つのサイドイベントから得られた示唆を簡単に紹介します。

 Sharing cases and experiences of OECMs recognition in production landscapes and seascapes【主催:日本環境省、FAO】
 Target 3 and Target 10 – Understanding the interface to support implementation and reporting【主催:WCPA、IUCN、CBD、TNC、NCC、WCS】

国ごとに異なるOECMのアプローチと可能性

サイドイベントでは、OECMの認定・運用のあり方が国ごとに大きく異なることが、日本、ナミビア、南アフリカの事例を通じて示されました。

日本では、「自然共生サイト」として、企業をはじめとする多様な主体が管理する場所について自主申請に基づき国が認定を行う仕組みが導入されています。民間主体による自発的な参加を促す制度設計は、国際的にも特徴的なアプローチとして紹介されました。

一方で、ナミビアでは、国主導のOECM特定・認定のプロセスが紹介されました。OECMに適した場所を国土全体からスクリーニングし、土地所有者・管理者ほか関係者の事前同意を得たうえで、国のOECM基準に基づく包括的な評価を行い、認定の可否を判断しています。

南アフリカのケースでは、生物多様性計画の一環で、ランドスケープにおける生物多様性の高い地域の特定が進められてきたことに加え、農地が生物多様性保全上重要な役割を果たし得ることを踏まえ、農地をOECMに組み込むための基準づくりや法整備の進捗が共有されました。

このように国ごとに多様なアプローチがとられる中で、主に生産活動が行われている場所も含めてOECMとして適切に評価・認定していくことには、多様な主体による保全への貢献を可視化し、さらなる参加を促進する意義があることが強調されました。

これは、KM-GBFが掲げるWhole-of-Societyアプローチ(全社会的アプローチ)を具体化するものとも位置付けられます。パネルではさらに、OECMを通じた多様な主体の参加や資金動員が、ターゲット3にとどまらず、KM-GBF全体の実施を進める上でも重要な要素であるとして議論されました。

一方で、海域におけるOECM認定の遅れや、生産者にとってのインセンティブの欠如などの共通課題も共有されました。

KM-GBF達成に向けた論点

国ごとに異なるOECMのアプローチについては、いくつかの重要な論点が浮かび上がっています。

第一に、ターゲット3(30by30)の達成において、「面積目標」の達成そのものが目的化することへの懸念です。保護地域・OECMの拡大が進んだとしても、それが生物多様性保全の成果(アウトカム)につながっているのかという「質」の評価が不可欠であるとの指摘が各所で上がっています。とりわけ、OECMについては、その柔軟性ゆえに、保全の成果をどうやって担保をしていくのかが国際的な議論になっています。

さらに、生産活動が行われているランドスケープ・シースケープがOECM認定される場合には、どのようなエリアが対象となり得るのか、またそこで行われる生産活動が、区域全体の生物多様性保全にどのように貢献し、どのような成果をもたらしているのかを明確に示しにくいという点が指摘されています。

また、持続可能な農林漁業については、ターゲット10が直接的な目標として存在するため、KM-GBFの報告や進捗評価の観点から、ターゲット3との関係について共通の整理やガイダンスが必要だという声も、専門家や政府関係者上がっています。

まとめ

OECMの今後は、今、まさに補助機関会合で議論されているKM-GBFのグローバルレビュー(中間評価)と、その後の2030年に向けた取り組みの加速においても重要なポイントのひとつです。

30by30達成に向けた重要な手段として、各国で制度整備や実践が進む一方で、その拡大とともに「どのような場所をOECMとするのか」「保全成果をどのように評価・担保するのか」といった課題もより重要になっています。

日本でも、2026年に30by30ロードマップの中間評価が予定されています。自然共生サイトをはじめとする国内の取り組みをより実効性のあるものにしていくためにも、他国の事例や国際的な議論から得られる示唆に引き続き注目していきたいと思います。


WWFジャパン 北出 智美