2026年7月27日、生物多様性条約第28回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA28)が、ケニア・ナイロビの国連環境計画(UNEP)本部で開幕しました。

初日は、開会式と会議運営に関する議題を終えた後、昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の実施状況を評価する「グローバルレビュー」とモニタリング枠組み、海洋・沿岸生物多様性、合成生物学について、各国・地域グループ、オブザーバーが最初の意見を表明するファーストリーディングが行われました。グローバルレビューおよび指標と、海洋沿岸についてはコンタクトグループの設立が宣言されました。

夜のサイドイベントの後には、計画・モニタリング・報告・評価(Plan, Monitoring, Report and ReviewいわゆるPMRR)のコンタクトグループが開催されました。

「科学的信頼性」を実施につなげる会合

会合は午前10時5分に開会しました。

SBSTTA議長は、COP17が迫る重要な時期に今回の会合が開催されることを強調し、開催国ケニアとUNEPに感謝を表しました。今回扱われるすべての議題において、科学的・技術的専門家の役割が不可欠であり、最新の情報に基づいて、締約国による意思決定を支える助言をまとめることがSBSTTAの任務であると述べました。

一方で、科学的に正確であるだけでは、政府間交渉の成果にはなりません。議長からは、協力の精神に立ち、妥協を探りながら、プロアクティブに議論をまとめ上げるよう求める発言もありました。

科学的評価の信頼性と、各国が合意できる政治的・実務的な助言をどう両立させるか。これは初日の各議題にも共通する課題となりました。

科学だけでなく、地域社会との協働を

UNEP事務局長の代理として挨拶したスーザン氏は、生物多様性保全における科学の重要性を強調するとともに、科学と地域社会との連携が不可欠であると述べました。

マウンテンゴリラやサイガアンテロープの保全事例に触れながら、科学的知見だけで成果が生まれるのではなく、地域の人々、政府、保全関係者が協力し、知識を実際の管理と行動につなげることで保全成果が生まれるとの考えが示されました。

SBSTTAは名称のとおり科学技術助言を担う機関ですが、現在の生物多様性条約では、科学と伝統的知識、国際的なデータと地域でのモニタリング、政策と現場の実践をどう結び付けるかが、ますます重要になっています。

残されたのは4年―コミットメントから成果へ

生物多様性条約事務局長のアストリッド・ショーメーカー氏は、SBSTTA28への参加者を歓迎し、会合開催を支援したEU、アイルランド、日本、カナダなどのドナーに謝意を示しました。今回の会合には約180か国から参加があり、多様な締約国の参加を支える資金的支援の重要性も改めて確認されました。

ショーメーカー氏が強調したのは、2030年までに残された期間が4年であるという点です。

これから必要なのは、合意やコミットメントを増やすことだけではありません。既に合意されたKMGBFを実行に移し、意味のある成果を生み出す段階へ転換しなければならないと訴えました。そのためには、より多くの主体の参加を促すとともに、実施に対する責任と説明責任を高める必要があります。

今回の中心議題であるグローバルレビューについては、各国から予想を上回る数の国別報告や査読意見が提出されたことが紹介されました。ただし、レビューの目的は、特定の国が何をしたか、あるいはしていないかを追及することではないと説明されました。

問われているのは、現在の取組の水準で十分なのか、そして、世界全体として実施の水準をどう引き上げるのかです。

さらに、モニタリング枠組み、20年以上にわたり保護地域政策をけん引してきた保護地域作業計画の更新、EBSAやBBNJ協定との連携を含む海洋・沿岸生物多様性など、今回の主要議題が紹介されました。

これらの課題は互いに独立しているのではなく、生物多様性そのものの複雑性と、そのガバナンスの複雑性を反映して相互につながっています。そのため、科学的信頼性を基礎としながら、それを実現可能な助言へ変換するSBSTTAの役割は、これまで以上に重要になっているとの認識が示されました。

会議参加の公平性も課題に

議題2では、会議運営に関する説明と決定が行われました。

プレナリーは国連のウェブサイトを通じて中継されますが、会合への参加と発言は対面のみです。発言時間は、地域グループが4分、各国が2分、オブザーバーが1分と設定されました。長期間にわたる会合に対応するため、会場の利用と食事の提供は午後7時30分から8時頃まで予定されています。

議題と進行案は承認され、議事録署名人にはスイスのニコラス氏が選ばれました。ビューローについては、欧州とアフリカから候補者が提案される一方、アジア太平洋地域と東欧地域では引き続き調整が行われています。

会議運営をめぐっては、二つのワーキンググループを同時並行で開催した場合、一人分の参加資金しか支援されていない国が十分に議論へ参加できなくなるとの懸念が示されました。これは単なる日程上の問題ではありません。交渉参加者の人数や資金力の違いが、各国の発言機会や文書交渉への関与に直結するためです。科学的・技術的に高度な会合であっても、公正で公平な参加をどのように確保するかは、重要な実施上の課題です。

グローバルレビュー「世界は軌道に乗っていない」の先を議論

実質的な議論では、まずKMGBF実施のグローバルレビューとモニタリング枠組みが扱われました。

各国の発言には違いがあるものの、世界全体の進捗が2030年目標の達成には不十分であるという基本認識は広く共有されています。対立があるのは、その診断をどの程度強い表現で政治的に共有するのか、また、実施の遅れをどのように説明するのかという点です。

EUなどは、世界が目標達成の軌道にないことを明確に認め、直接的・間接的な生物多様性損失の要因や、気候、食料、水、健康、土地利用などとの政策一貫性の不足に対応するよう求めています。

一方、ブラジルやアフリカ・グループは、データや報告が不足していることを、実施が行われていないことと同一視すべきではないと主張しています。途上国の観測、統計、モニタリング能力の不足に加え、資金、技術移転、能力構築といった実施手段が十分に提供されていないことも、実施ギャップと同時に評価すべきとの立場です。

また、グローバルレポートそのものをCOPが「承認」するのか、科学的・技術的な重要な情報源として「歓迎」「留意」するのかも、制度的な争点となっています。

初日の議論を見る限り、世界が軌道に乗っていないという診断自体よりも、その原因を国内の政策・意欲に求めるのか、資金や能力の不足にも求めるのか、さらに、レビューをどの程度強い説明責任の仕組みにするのかが交渉の焦点となっています。

モニタリング枠組みについても、指標を追加し、非国家主体、先住民族及び地域社会、女性、若者などの貢献をより適切に把握すべきとの意見がある一方、既存指標を安定させ、各国の報告負担を増やさないことを優先すべきとの意見が示されました。

海洋―BBNJ協定発効後のCBDの役割をどう考えるか

海洋・沿岸生物多様性では、生態学的又は生物学的に重要な海域(EBSA)の新規記述や既存記述の修正、査読のための自主的ガイドライン、国家管轄権外区域の海洋生物多様性を扱うBBNJ協定との連携が議論されました。

多くの国がBBNJ協定との連携を支持していますが、CBDとBBNJ協定の役割分担については異なる力点があります。

EUは、CBDがこれまで蓄積してきたEBSA、海洋保護区、環境影響評価などの科学的知見やガイダンスを、BBNJ協定の実施に積極的に活用することを重視しています。

一方、日本は、両制度の補完性を確保し、不必要な重複を避けるべきだと強調しています。ブラジルも、EBSAはあくまで科学的・技術的な海域の記述であり、それ自体が海洋保護区や区域型管理措置を指定するものではないとの明確な線引きを求めています。

また、先住民族及び地域社会、女性、若者のオブザーバーからは、EBSAの科学的評価に伝統的知識を含めるだけでなく、その利用に際して自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)を確保することや、知識保持者を専門家として正式に参加させることが求められました。

BBNJ協定の発効により、CBDの海洋分野での役割が小さくなるのか、それとも長年蓄積してきた科学的知見を新たな国際海洋ガバナンスへ提供する役割が強まるのか。今後の交渉では、この制度間関係が重要になります。

合成生物学―技術の是非より、ガバナンスの設計

合成生物学については、初日の審議で議論を終えることができず、翌日以降に持ち越されました。

事前に出された各国の意見には、合成生物学の潜在的な利益とリスクの双方を評価し、能力構築、技術移転、知識共有を進める必要があるという共通点があります。一方で、その評価方法とガバナンスの強さには違いがあります。

JASCANZの国からは、科学的・証拠ベースで、個別の用途や環境条件に応じたケースバイケースの評価を重視しています。また、行動計画は自主的であり、新たな義務や規制、報告負担を生じさせるべきではないとの姿勢です。

EUは、新たな専門家グループの設置や継続的なホライズンスキャニングを支持し、特にAIと計算生物学を今後の重点領域として捉えています。

これに対して、若者、女性、先住民族及び地域社会の団体は、不確実性や社会的・文化的影響を含む、より予防的で多分野的な評価を求めました。環境放出前のバイオセーフティ評価、企業との利益相反、技術利用による伝統的な生業や知識体系への影響、AHTEGへの権利主体の参加などが提起されています。

また、アフリカ・グループの立場からは、開発途上国では情報、評価能力、規制制度が不足しており、技術の便益を活用しリスクを管理するためには、資金、能力構築、技術移転が不可欠であるとの指摘がありました。

合成生物学の論点は、技術を推進するか禁止するかではありません。科学的評価、予防的アプローチ、イノベーション、権利、途上国の能力をどう組み合わせたガバナンスをつくるかが問われています。

初日を終えて―「科学から実施へ」は簡単ではない

開会挨拶では、2030年までの残り4年間で、コミットメントを実施と成果へ転換することが繰り返し強調されました。

しかし、初日の議論からは、その転換が簡単ではないことも見えてきます。

グローバルレビューでは、科学的診断をどこまで政治的に共有するかが問われています。海洋では、複数の国際制度の間で、科学的知見と意思決定の役割をどう分担するかが課題です。合成生物学では、急速に進展する技術に対し、科学的証拠が十分にそろうまで待つのか、不確実性を踏まえて予防的に対応するのかが議論されています。

これらに共通するのは、科学的知見を増やすことだけでは解決しないという点です。どの知識を用いるのか、誰が評価に参加するのか、資金と能力を誰が提供するのか、国際的な助言と各国の判断をどう組み合わせるのかという、ガバナンスの議論が不可欠です。

IUCN-Jでは、引き続きナイロビの会場から、各議題の交渉の進展と、その背景にある各国・地域グループ、IUCN、先住民族及び地域社会、NGOなどの立場をお伝えします。単に採択文書を紹介するのではなく、どのような対立と妥協を経てCOP17への勧告が形づくられるのか、日本の政策や保全活動とどのようにつながるのかという視点から、現地レポートを続けていきます。


国際自然保護連合日本委員会 
会長 道家哲平