生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)に参加するため、アルメニアの首都エレバンに来ています。
到着翌日の朝食の際、同行している方がこんな話をしてくれました。
「神社仏閣周辺って、実は生物多様性が豊かなんですよね。都市部のものでも、生物多様性が高く保たれていることが多いです。」
その場にいたIUCN-Jの道家さんも、こう続けます。
「都市の中で自然に触れられるような都市計画を推奨するイニシアティブを、世界経済フォーラム(WEF)が主催していますね。」
私は少し驚きました。神社やお寺には何度も足を運んできましたが、その周りの森を「生物多様性の宝庫」として捉えたことは一度もなかったためです。
今年9月に発表された報告書「State of Biodiversity Action」では、昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の目標達成に遅れが出ていることが指摘されました。都市の緑地・親水空間の確保を掲げるターゲット12も、各国が「順調」と評価する割合が特に低い目標の一つです。
今回は、日本の街のいたるところにある「神社仏閣」という環境を、生物多様性の観点からどう活かしていけるのかを考えます。
「都市の中の自然」を重視する潮流
道家さんが教えてくれたのは、WEFがコロンビア政府などと立ち上げた「BiodiverCities by 2030」です。都市の行政・企業・市民が、自然と調和した都市開発を進めることを後押しする取り組みです。先進例として知られるシンガポールは「City in Nature(自然の中の都市)」というビジョンを掲げ、2030年までにすべての世帯が公園から徒歩10分以内で暮らせることを目指しています。また、BiodiverCitiesを共同で立ち上げたコロンビアのメデジンでは、道路や水路沿いに木々を植えて緑の帯でつなぐ「グリーン・コリドー」が整備されました。市によると、整備した地域では気温が最大で約2℃下がったといいます。緑の帯は周囲の丘陵ともつながるように設計されており、生き物が行き来できるひと続きのすみかになっています。実際、5か所の緑の帯を調べた調査では30種のチョウが確認され、鳥も多く戻ってきたと報告されています(参照)。
人が自然のある場所へ足を運ぶのではなく、人が暮らす場所に自然を呼び込むという考え方が、いま世界で注目を集めています。

(写真:シンガポールの街中にある Gardens by the Bay。2018年撮影)
都市の神社の森は、なぜ豊かなのか
では、日本の都市はどうでしょうか。日本の街にはたいてい一つ以上の神社やお寺があり、その境内では豊かな自然に触れることができます。たとえば東京・原宿駅のすぐ隣に広がる明治神宮の森では、23区内でも屈指の豊かな生態系があることがわかっています(参照)。
こうした豊かさは、ほかの神社仏閣でも確認されています。中央大学の研究グループによれば、東京都文京区の神社仏閣は都市公園よりも鳥類の多様性が豊かだといいます(参照)。その理由として、木々や下草が何層にも重なる複雑な植生と、それを支える「適度に弱い管理」が挙げられています。
ここで私が思い浮かべたのは、公園との違いです。公園は世界中の都市にありますが、その多くは人が快適に過ごすために整えられた空間です。都市の緑地では、歩行者の視界を遮り、快適性や安全性を下げるとして、下草が取り除かれることが多いという指摘もあります(参照)。一方、神社はそもそも人ではなく神様のための場所であり、日本独自の信仰が生んだ空間です。日本には、山の神を里に迎えてお祀りするという考え方があります。そのため、神社の森は、人が使いやすいように整えられるのではなく、神様の場所として手を入れすぎないよう守られてきました。明治神宮の森も、もとは畑や荒れ地に約10万本の献木を植えてつくられた、人の手による森です。それでも、公園のように人の使いやすさに合わせて整えるのではなく、自然の移り変わりに任せて育てられてきました。このような、どれだけ自然本来の姿に近い状態で保たれてきたかという違いが、生物多様性の差として現れているのではないでしょうか。

考察:神社仏閣の森を、都市の資産として活かすには
現在、多くの神社仏閣は維持費の確保に苦しんでいるといいます。そこで私は、生物多様性のホットスポットとしての価値が可視化されれば、森の自然を守りながら神社仏閣にもお金が回る仕組みができるのではないかと考えます。
その足がかりとなる制度が、環境省の「自然共生サイト」です。この制度は、民間などの活動で生物多様性が守られている場所を国が認定する仕組みです。さらに、認定サイトを支援した企業には国が「支援証明書」を発行するため、企業は自然への貢献を対外的に示すことができます。TNFD※の流れで自然への貢献の開示を求められる企業にとって、身近な神社の森は魅力的な支援先になりえます。
※TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース):企業が自然への依存や影響、それに伴うリスクと機会を把握し、投資家などに開示するための国際的な枠組み。
さらに、こうした「神社仏閣の森が街の中にたくさんある」という環境こそ、日本独自の強みだと考えます。信仰によって守られてきた森は世界にもありますが、大都市の中にこれほど身近に、かつ数多く点在している国は珍しいのではないでしょうか。KMGBFの進捗の遅れが指摘されている今、「人が暮らす場所に自然がある都市」の種がすでに撒かれている日本の街は、目標達成に向けて大きな貢献ができると感じます。
筑波大学大学院/IUCN-Jインターン
福井涼士























