2026年10月20日、アルメニア・エレバンで開催中の生物多様性条約第17回締約国会議(CBD COP17)は2日目を迎えました。
この日は、国際交渉が複数のコンタクトグループに分かれて進められる一方、今後の生物多様性保全に関わる重要な報告書と国際基準が発表されました。
一つは、先住民族と地域コミュニティの視点から生物多様性の現状と取り組みをまとめた『Local Biodiversity Outlooks 3(LBO-3)』です。もう一つは、IUCNが発表した保護地域・保全地域の実効性と公平性を評価する国際基準『IUCN Global PCA Standard Version 2.0』です。
両者に共通するのは、自然保護を面積や政策の数だけで評価するのではなく、実際に自然や人々にどのような成果が生まれているかを重視する視点です。
1.地域の声から生物多様性を捉える ― Local Biodiversity Outlooks 3
10月20日、先住民族と地域コミュニティの視点から世界の生物多様性の状況を捉える『Local Biodiversity Outlooks 3(LBO-3)』が発表されました。
LBO-3は、Forest Peoples Programme(FPP)などの関係団体が、先住民族・地域コミュニティの組織と協力して作成した報告書です。
今回の第3版では、2022年に昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)が採択されて以降、地域の現場で何が変わったのか、生物多様性政策が先住民族・地域コミュニティにどのような影響を及ぼしているのか、そして彼ら自身が世界目標の達成にどう貢献しているのかを取り上げています。
COP17では、各国の国別報告書などを基にした世界全体の進捗評価が重要な議題となっています。しかし、国の統計や制度の整備状況だけでは、地域で受け継がれてきた知識や自然資源の管理、現場で生じている課題のすべてを捉えられるわけではありません。
LBO-3は、こうした政府中心の評価を補完し、自然とともに暮らしてきた人々の知識、権利、実践を生物多様性政策の中心に位置づけることの重要性を示しています。
これは、COP17で協議が進む先住民族・地域コミュニティに関する第8条(j)の議論や、KMGBFのグローバルレビューを考えるうえでも重要な視点です。
2.保護地域は「指定した面積」だけで十分か ― IUCN Global PCA Standard 2.0
同じく10月20日、IUCNは『IUCN Global Standard for Effective and Equitable Protected and Conserved Areas(IUCN Global PCA Standard)Version 2.0』を発表しました。
これは、従来の「IUCNグリーンリスト基準」を発展させ、保護地域・保全地域が実際に自然を守る成果を上げているか、管理や意思決定が公平に行われているかを評価し、改善につなげるための国際基準です。
KMGBFのターゲット3では、2030年までに陸域・内陸水域、海域・沿岸域の少なくとも30%を効果的に保全する「30by30」が掲げられています。しかし、保護地域を指定しただけでは、自然が十分に守られているとは限りません。
重要なのは、その地域で生物多様性が維持・回復されているか、脅威が軽減されているか、地域住民や先住民族の権利が尊重されているか、管理体制が機能しているかという、保全の「質」です。
今回のVersion 2.0は、4つの構成要素、19の基準、48の指標からなり、特に次の点が強化されています。
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先住民族・地域コミュニティの権利や、自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)を含む、公平なガバナンス
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気候変動による影響を踏まえた保全計画
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資金、人材、施設など、管理能力の評価
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自然への脅威の軽減と、実際の保全成果の把握
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モニタリング結果を管理の改善に反映する順応的管理
また、国立公園などの保護地域だけでなく、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に貢献する地域)にも適用できるよう設計されています。
この基準は、優れた保護地域・保全地域を認証する「IUCNグリーンリスト」の基礎としつつ、各地域が自らの管理状況を点検し、改善するためにも活用できます。
30by30の達成が近づくにつれ、今後は「何%を保護したか」だけでなく、「保護した地域で何が実現したか」を説明することが一層重要になります。
COP17交渉議題の一つ、保護地域作業計画は、より「質」の要素を強化する議論をしており、その議論を補完する国際基準と位置付けられます。
PCA 2.0の発表を行ったサイドイベントの詳細は、Nature+メンバー向け記事で紹介しています
3.国際交渉:資源動員、DSI、主流化などの協議はスロースタート
COP17の政府間交渉では、コンタクトグループでの協議が本格的に動き始めました。
コンタクトグループとは、意見の隔たりが大きい議題について、各国が比較的小規模な会合で具体的な文案や合意点を探るための協議の場です。
午前:DSIや議定書関連の協議
作業部会I(WG1)では、遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)や、カルタヘナ議定書・名古屋議定書に関する議題が扱われました。
DSIは、遺伝資源の配列情報の利用から生じる利益を、どのように公正・衡平に配分するかという議題です。COP16で運用化が決まったカリ基金(Cali Fund)を含め、今後の制度運営が重要な論点となっています。
昼にはDSIに関する議長フレンズ会合(Friends of the Chair)も開かれ、夜のコンタクトグループへと協議が続きました。
一方、作業部会II(WG2)関係では、持続可能な野生生物管理やIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)との関係について、コンタクトグループが設置されました。
午後:資源動員と生物多様性の主流化
午後には、資源動員と生物多様性の主流化に関するコンタクトグループが開催されました。
資源動員の会合では、主に三つの論点が取り上げられました。
第一に、今回のCOP17で資源動員に関してどのような成果を得るべきか、各国・地域グループから意見が示されました。
第二に、生物多様性条約第21条に基づく資金メカニズムの制度的な仕組みに求められる基準について意見交換が行われました。COP15決定に基づく基準案のうち、一部の項目について、より簡潔な表現に整理するための意見が求められました。
第三に、資金の貢献者をどのように拡大するかという議論が行われました。特に、先進締約国および同様の義務を任意に負う国のリストをどのような方法で改定するかが論点となり、サウジアラビアから示された代替案の扱いも議論されました。
ただし、今回の会合は、各国の考え方や提案を確認する段階にとどまり、具体的な妥協案を詰める本格的な文案交渉にはまだ至っていません。
生物多様性の主流化についても、各国から多様な意見が示されたものの、議論は広がり、合意文案をまとめる方向での協議は限定的でした。
夜:グローバルレビュー、DSIなどの協議が続く
夜には、WG1関係でKMGBFのグローバルレビューとDSIのコンタクトグループが予定され、協議が続きました。
また、WG2ではカルタヘナ議定書関係の議題に続き、森林生物多様性、侵略的外来種、農業と生物多様性について、CRP(会議室文書)を基に協議する日程が組まれました。
CRPは、会議での採択に向けた決定案などを整理した文書であり、これを基に締約国が文言の調整を進めます。
4.10月20日の総括 ― 保全の「成果」を問う動きと、実施手段をめぐる交渉
COP17の2日目は、国際的な知識・評価基盤の発展と、政府間交渉の難しさの双方が見える一日となりました。フォーラム関係は、ますます人が増え、グローバルネイチャーポジティブサミットを共催したNPIも今日からNature Positiveパビリオンを本格稼働させています。
LBO-3は、先住民族・地域コミュニティの知識と実践を通じて、国際目標の実施状況を地域から捉え直す視点を提示しました。一方、IUCN Global PCA Standard 2.0は、保護地域・保全地域の実効性と公平性を測定し、改善するための共通基準を示しました。
いずれも、国際目標を掲げるだけでなく、現場での実施と成果を重視する動きといえます。
その一方、資源動員や主流化をめぐる交渉では、各国の立場や提案が出そろい始めた段階であり、合意形成に向けた道筋はまだ明確ではありません。
2030年の目標達成まで残された時間は限られています。自然保護の成果を測る方法が発展する一方で、それを実現する資金や制度、国際協力のあり方について、各国がどこまで具体的な合意を形成できるかが、今後のCOP17の焦点となります。
国際自然保護連合日本委員会
会長 道家哲平























