2026年7月に熊本で開催された「グローバル・ネイチャーポジティブサミット2026」に参加し、企業・行政・研究機関・金融機関・NPOなど、国内外の多様な主体が「ネイチャーポジティブ」の実現に向けて議論する最前線を体感することができました。サミットでは、自然資本、TNFD(自然関連財務情報開示)、Nature Tech、ランドスケープアプローチ、若者の参画、共創など、これからの社会を支える重要なテーマについて学ぶとともに、多くの方々との交流を通して新たな可能性を見出すことができました。
今回の参加を通して最も強く感じたことは、「自然を守る時代」から、「自然の価値を社会全体で理解し、経済や教育、地域づくりの中に組み込む時代」へと、大きく転換しているということです。
これまで私たちのような地域NPOは、「森を守る」「生きものを守る」といった現場での活動を中心に取り組んできました。しかし世界では、その活動を客観的なデータで示し、企業や金融機関、行政と共有することで、新たな投資や共創につなげる流れが急速に進んでいました。
特に印象的だったのが、「Nature on the Balance Sheet(バランスシート上の自然)」という考え方です。自然はこれまで社会にとって欠かせない存在でありながら、その価値が財務諸表に十分反映されてきませんでした。しかし今後は、自然資本を評価し、企業価値や経営判断の中に組み込む仕組みづくりが世界的に進んでいくことが示されました。
そのためには、まず信頼できるデータを蓄積し、自然資本を評価し、その価値を社会全体で共有していく必要があります。そして将来的には、投資家や金融機関が自然資本を企業評価の重要な指標として扱い、最終的には政府や中央銀行もその価値を制度として組み込んでいくという、大きなロードマップが描かれていました。
私たちが管理する里山は決して広大ではありません。しかし、「小さな里山だからこそ、高品質なデータを継続的に取得し、その価値を社会へ発信するモデル」を目指すことは十分可能であると感じました。
また、TNFD(自然関連財務情報開示)のセッションでは、「開示すること」が目的ではなく、「経営戦略を説明する機会」であるという考え方が非常に印象に残りました。企業活動が自然へどのような影響を与えているのか、そして自然の変化が企業へどのようなリスクや機会をもたらすのかを整理し、戦略の中へ組み込んでいくことが重要であると学びました。さらに、実績値と将来予測を明確に区別しながら情報を扱うことや、公平で継続的な情報開示を行うことの重要性も繰り返し語られていました。
この考え方は企業だけでなく、私たちの活動にも応用できると感じています。これまで「活動をした」という事実だけを発信するのではなく、「活動によって自然がどう変化したのか」「参加者がどのように成長し、行動が変化したのか」を継続的なデータとして示すことで、活動の価値をより多くの人へ伝えられるようになります。
展示ブースでは、AI、生物多様性モニタリング、eDNA、衛星データ、ドローンなど、最新のNature Techが数多く紹介されていました。以前であれば専門家しか扱えなかった技術が、今では地域活動や教育現場でも活用できる段階まで進んでいることを実感しました。
特に印象的だったのは、「データを集めること」が目的ではなく、「データを活用して人の行動を変えること」が本当の目的であるという考え方です。
私たちが現在開発を進めている「docoe?」も、まさにこの考え方と重なります。参加者が自分自身の行動を記録し、その積み重ねが地域や自然へどのような影響を与えたのかを可視化することで、自然保全を「一部の専門家だけの活動」ではなく、「誰もが参加できる日常の行動」へと変えていくことができます。
さらに、多くの企業や団体とのネットワーキングを通じて感じたことは、「優れた技術だけでは社会は変わらない」ということです。社会を動かしているのは、異なる立場の人たちが同じ目的に向かって協力する「共創」の力でした。企業、大学、行政、NPO、地域住民、それぞれが持つ強みを持ち寄ることで、一つの団体では実現できない大きな変化を生み出すことができます。私たちも今後は、自分たちだけで課題を解決しようとするのではなく、多様な主体と連携しながら活動を発展させていく必要があると強く感じました。
今回のサミットを通して、私たちが今後取り組むべき方向性も明確になりました。それは、「自然を見える化すること」「教育による行動変容を測ること」「企業や研究機関との共創を進めること」、そして「里山から世界へ発信できるモデルをつくること」です。サミット後に整理したアクションロードマップでも、里山ダッシュボードの構築、教育成果の数値化、Nature Techの実証、共同研究の推進、そしてストーリーを磨いて世界へ発信することを重点項目として位置付けています。
今回の熊本での学びは、決して「知識を得た2日間」ではありませんでした。私たちがこれまで取り組んできた里山保全や教育活動が、世界のネイチャーポジティブという大きな流れの中でどのような意味を持ち、どのように発展させていけるのかを確認できた2日間でした。
世界で議論されている最先端の考え方も、実際に実現する場所は地域です。そして、その地域には一人ひとりの行動があります。
夢前町の小さな里山から始まる挑戦が、教育を変え、人を育て、企業との共創を生み、やがて世界のネイチャーポジティブへとつながっていく。その未来は決して遠い理想ではなく、今回のサミットで出会った人々や技術、そして得られた知見によって、現実的な目標として描けるようになりました。
熊本で得た最大の学びは、「自然の価値を理解する人を増やすこと」ではありません。「自然の価値を理解した人が、実際に行動し、その行動が社会の仕組みを変えていく循環をつくること」です。
私たちはこれからも、夢前町の里山を実践の場として、データとストーリー、教育と共創を組み合わせながら、「自然と人がともに豊かになる地域モデル」の実現に挑戦していきます。そして、この小さな地域から始まる取り組みが、日本、そして世界へ広がるネイチャーポジティブの一歩となることを目指して、歩みを続けていきます。
NPO法人夢ノ森伴走者CUE
代表 向山遥温




















