COP17開幕を前に、エレバンで相次ぐ国際イベント
2026年10月19日から30日まで、アルメニアの首都エレバンで、生物多様性条約第17回締約国会議(CBD-COP17)及び条約のもとに作られたカルタヘナ議定書会合、名古屋議定書会合が開催されます。
今回のCOP17は、2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)」の2030年目標まで残り4年となる重要な会議です。各国の取組がどこまで進んでいるのかを確認する初めてのグローバルレビューが行われ、目標達成に向けた取組の加速が求められます。
本会議の開幕に先立ち、エレバンでは10月15日から、世界全体の生物多様性保全の進捗報告書(グローバルレポート)の発表、首脳級会合、自然保護に関する国際シンポジウム、ユースサミットなどが相次いで開催されています。
これらのイベントからは、議長国アルメニアがCOP17を通じて国際社会に発信しようとしているメッセージが見えてきました。
世界の自然保護の進捗を評価――State of Biodiversity Action
10月15日には、生物多様性条約事務局による報告書『State of Biodiversity Action』が発表されました。これはKMGBFの実施に関する世界全体の進捗を評価した初めてのグローバルレポートです。
報告書では、各国政府や企業、市民社会などによる取組が広がっている一方で、2030年目標の達成に向けた進捗は依然として不十分であることが明らかにされました。
各国による目標設定は大きく進展しており、162か国・地域(締約国の83%)がKMGBFに対応した国別目標を設定しています。しかし、報告書は、23のターゲットすべてについて、十分に良好な進捗が確認されているわけではないと指摘しています。
特に重要なのは、自然保護活動そのものに加え、生物多様性の損失を引き起こす経済・社会の構造的な要因への対応が遅れていることです。
企業活動による影響への対応(ターゲット15)、有害な補助金やインセンティブの改革(ターゲット18)、資金動員(ターゲット19)などは、進捗の遅れが目立つ分野です。
資金面では、2025年までに途上国向けの国際的な生物多様性資金を年間200億ドルに増やすという中間目標について、達成できなかった可能性が高いと評価されています。ただし、確定的な評価には、2025年までの完全なデータが必要とされています。
また、報告書は、データやモニタリング体制の不足、政府内の政策調整の弱さ、先住民・地域共同体や若者、企業など多様な主体の貢献を十分に把握・支援できていないことも指摘しています。
報告書に寄せた序文で、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「私たちはともに行動を加速し、生物多様性の損失を止め、反転させることができる」と呼びかけています。
今回のグローバルレビューは、各国の取組を評価するだけでなく、残された4年間で何を強化すべきかを見極める機会となります。
リーダーズサミット――絶滅危惧種の回復とエレバン宣言
10月16日には、アルメニア政府主催の「Leaders for Nature Summit」が開催され、各国の首脳・閣僚や国際機関の代表者が参加しました。
この会合では、自然保護に向けた政治的な意思を改めて確認するとともに、具体的な行動を拡大するための国際協力が呼びかけられました。

Photo: © Republic of Armenia / COP17 Yerevan. Licensed under the Open Government Licence v3.0.
特に注目されたのが、アルメニアと前回COP16議長国のコロンビアが主導する「Coalition of Action to Recover Endangered Species(CARES)」の発足です。
CARESは、KMGBFのターゲット4に対応し、絶滅危惧種の絶滅を防ぐだけでなく、野生下での個体群の回復を実現することを目指す国際連携です。アルメニア、コロンビア、日本ではあまり知られていない生物多様性の豊かな国々を含む、16か国が設立時の参加国となりました。
また、これと連動する動きとして、9つの民間財団・慈善団体等による「Species Recovery Alliance」も発足し、今後5年間で5億米ドルを超える資金を絶滅危惧種の回復に振り向ける方針が示されました。
こうした動きに対し、俳優で環境保護活動家のレオナルド・ディカプリオ氏もSNSを通じて支持を表明しました。同氏は、種の絶滅を防ぐだけでは不十分であり、絶滅の危機にある種を実際に回復させることが必要だと訴えています。この発信は国際的な注目を集めました。
政府による政治的な協力と、民間財団による資金動員が同時に打ち出されたことは、自然保護を具体的な成果につなげようとする今回のCOP17の方向性を象徴しています。
サミットの締めくくりには、「Yerevan Declaration – Taking Action for Nature(自然のための行動に関するエレバン宣言)」が採択されました。
宣言では、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させるという目標を再確認するとともに、保全資金の拡大、生態系の保護・回復、科学技術の活用、国際協力、多様な主体の参加を強化することが掲げられました。
特に、政治的な約束を、測定可能な行動と具体的な成果に変えていくことが強調されています。
保護地域の枠を超える――Conservation Symposium
10月17日から18日にかけては、アルメニアの自然保護団体FPWC(Foundation for the Preservation of Wildlife and Cultural Assets)が主催する「Yerevan Conservation Symposium 2026」が開催されています。
テーマは「Beyond State Protected Areas(国が指定する保護地域の枠を超えて)」です。
KMGBFのターゲット3では、2030年までに陸域・内陸水域および海域の少なくとも30%を保全する、いわゆる30by30目標が掲げられています。しかし、国立公園など政府が指定する保護地域だけで、この目標を効果的に実現できるわけではありません。
地域住民、民間の土地所有者、自然保護団体、先住民や地域共同体など、多様な主体が自然を守り、管理する仕組みをどのように評価し、支援していくかが重要になります。
シンポジウムでは、こうした課題を踏まえ、「Yerevan Call to Action(エレバン行動呼びかけ)」という文書を採択し、COP17で発表することが予定されています。
政府による保護地域指定にとどまらず、多様な主体による保全活動を支え、実効性のある保全地域を広げていくことが、その重要な方向性です。
日本でも自然共生サイトの認定やOECMの推進が進んでいます。保全地域の面積を増やすだけでなく、管理の質や持続性を高めるために、どのような制度や支援が必要か。国際的な議論から学べることは少なくありません。
次世代が担う生物多様性保全――グローバルユースサミット
同じく10月17日から18日にかけて、エレバン国立大学では「Global Youth Summit for Biodiversity 2026」が開催されています。
このサミットは、COP17議長国アルメニア、アルメニアのユース団体、Global Youth Biodiversity Network(GYBN)などが協力して開催するものです。
サミットでは、ユースを単なる将来の担い手としてではなく、すでに自然保護の実施を担っている主体として位置づけています。生物多様性政策の理解を深めるとともに、各地での実践を共有し、世代や国境を超えた協働につなげることを目指しています。
KMGBFでは、将来世代の権利や若者の意思決定への参加も重視されています。COP17においても、若者の声を聞くだけでなく、実際の政策決定や自然保護活動に参加できる環境を整えることが重要な課題となります。
IUCN日本委員会からも今回、ユースメンバーがCOP17に参加します。国際交渉の経験を次世代に継承するとともに、日本の自然保護コミュニティと世界の若者とのつながりを強める機会にしたいと考えています。
議長国アルメニアが目指すもの――地域協力と重点イニシアティブ
今回のCOP17で特徴的なのは、議長国アルメニアが、国際会議の開催を契機に、自国および周辺地域の自然保護を進めるための国際協力を積極的に展開しようとしていることです。
アルメニアが位置する南コーカサス地域には、山岳生態系、森林、河川、湖沼など、国境を越えてつながる重要な自然環境が存在します。こうした自然を守るためには、一国だけの取組ではなく、周辺諸国との連携が欠かせません。
アルメニア政府は、近隣諸国との保全協力を強化するため、閣僚級の対話を進めています。自然保護を国際的な協力関係の構築につなげようとする姿勢がうかがえます。
さらに、COP17に向けて、アルメニア政府は4つの重点イニシアティブを準備しています。これらは、KMGBFの実施において生じている異なる課題に対応し、具体的な行動を加速するための仕組みを構築しようとするものです。
第1は、「Tech for Biodiversity Monitoring(生物多様性モニタリングのための技術)」です。
多くの国で、生物多様性の状態を把握するためのデータやモニタリング能力が不足しています。こうした課題に対応するため、技術やデータを活用したモニタリング基盤の整備を進め、自然の状態や保全の成果を測定し、報告できる仕組みの強化を目指します。
第2は、「Yerevan Platform on Mountain and Freshwater Ecosystems(山岳と淡水)」です。
山岳生態系や淡水生態系は、国境や行政区域を越えてつながっています。しかし、自然保護、水資源管理、土地利用などの政策は縦割りになりがちです。このイニシアティブでは、流域やランドスケープの単位で政策や取組を統合し、関係者が協働して保全を進めるための基盤づくりを目指しています。キルギスタンが支持表明をしたとのニュースもありました。
第3は、「Global OECM Alliance」です。
30by30目標の達成に向けて、OECMの重要性が高まっていますが、その認定基準や管理能力、実施体制には国や地域によって大きな差があります。このイニシアティブでは、知見の共有や能力構築、実施支援を通じて、KMGBFターゲット3の実現を後押しすることを目指します。
第4は、「The Yerevan Call on Incentives Positive to Biodiversity(ポジティブ・インセンティブ)」です。
自然保護に資金を投入する一方で、自然の損失を促進する補助金や経済的なインセンティブが存在することは、KMGBF実施上の大きな課題です。このイニシアティブでは、ターゲット18(Friends of Target 18)に対応し、有害なインセンティブの改革と、自然保護や回復を促進する経済・財政の仕組みへの転換を後押ししようとしています。(10月26日発表予定)
この4つのイニシアティブは、それぞれ、測定・モニタリング、流域・生態系単位での協働、保全地域の実施能力、経済的インセンティブという、KMGBF実施上の重要な課題に対応しています。
議長国としてアルメニアがどのような国際的な賛同や協力を得られるか、また、COP17後にも継続する仕組みとして具体化できるかが注目されます。
COP16との比較から見えてくる、今回のCOP17の特徴
最後に、開幕前のエレバンの動きを、2024年にコロンビアのカリで開催されたCOP16と比較してみたいと思います。
COP16では、先住民や地域共同体の生物多様性保全への貢献に加え、アフリカにルーツを持つ人々、いわゆるアフロ系住民の役割が大きく取り上げられました。
自然を守るのは政府だけではなく、地域で暮らし、自然と関わり続けてきた人々であるというメッセージが強く打ち出され、COP16は「People’s COP(人々のCOP)」とも呼ばれました。
一方、今回のCOP17の事前イベントからは、やや異なるメッセージが感じられます。
それは、自然保護の取組をいかに拡大するか、そして、そのための資金と経済の仕組みをどのように変えていくかということです。
自然保護のための資金を増やすことはもちろん重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。自然の損失を引き起こしている補助金や投融資など、自然に悪影響を与える資金の流れを見直し、自然の保全と回復を後押しする方向へ転換することが求められています。
いわば、自然にとってプラスとなる資金を増やすと同時に、マイナスとなる資金を減らしていくという、二つの方向からの取組です。
今回発表されたグローバルレポートでも、資金動員の遅れとともに、有害なインセンティブの改革が進んでいないことが明確に指摘されました。CARESと民間財団による資金動員、アルメニア政府が準備するポジティブ・インセンティブのイニシアティブなども、こうした問題意識とつながっています。
もっとも、これは開幕前のイベントを通じた現時点での印象です。
10月22日以降には、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、Nature Positive Initiative(NPI)、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)など、企業活動や情報開示、自然の状態を測定する指標に関わるセッションが増えていく予定です。
週の後半からは、自然保護と経済活動の関係をどのように測定し、企業や金融機関の行動につなげていくかという議論が、さらに存在感を増していくことが予想されます。
COP17が、自然保護の目標を再確認するだけでなく、自然の損失を止め、回復に向かわせるための具体的な実施と経済の転換を進める会議となるか。
エレバンから、引き続きその動きを報告していきます。

ズヴァルトノッツ国際空港から、COP17関連ポスターが見られます
一般社団法人国際自然保護連合日本委員会
会長 道家哲平






















