SBI4最終日で9日目になる5月29日は、午前と、ちょっと遅めの午後に本会議が開かれましたが、進行は引き続き遅く、多くの国が不満を表明する中、ブラケットだらけの決定案をCOP16に送ることになりました。

いつもは、ブラケット部分をかき分けて、会議の決定事項を紹介するのです不可能そうです。下記は、決定事項(そもそもCOP16で発効するものですが)ではなく、そういうアイディアが出たというくらいで、議題のポイントを見ていただくつもりでお願いします。何も決まってないと書くよりは、このような曖昧でも、ご紹介した方が良いと思っての措置です。ご了承ください。

注:帰国のフライトがあり、本ページは追加の更新予定です。

資源動員(議題4a)

資源動員は、何度もコンタクトグループを重ねましたが、溝は埋まらず、溝の深さを確認したSBIだったように思います。ほとんどbracketが付いているのですが、パラグラフ25~29までの代案を眺めると(といっても沢山の代案で1ページを割いていますが)様相が見えてくると思います。ごく単純化すると、GBF実施のための資金不足は共通認識として一致しつつ、①新たな資金メカニズムが必要か、②COP16以降何を検討するべきか、③検討するための組織は何か、の3論点ということになります。

「まだまだ資金不足であるが、国の供出は良い傾向で増えている。そのため、資金源の多様化と、設立されたGBFファンドの運営を改善することで、スムーズな資源動員を進めたい」とする国々は、①Global instrumentの検討は不要(時間や交渉努力の無駄)とし、②COP16以降資金拡大に向けて何が必要か、民間含む多様なセクターからの資源動員の道筋を探るべく、③少数で運営する資源動員専門家グループを開催するべきというアイディアが見て取れます。

「まだまだ資金不足で、先進国の供出を中心に、もっと増やすべき(民間からの資源は、「金に物を言わす」状況が生まれるかもしれない)。GEFやGEFに設置されたGBFファンドではなく、CBD-COPの決定で資金の出し入れや配分が決められる形で、資源動員を進めたい」とする国々は、①Global instrumentの検討開始を決め、②COP16以降、GIのありようを決めるために、③暫定公開作業部会(全締約国が参加)か、政府間検討プロセスを開催するべきというアイディアです。

GBF(生物多様性世界枠組み)ファンドが出来たにも関わらず、対立を深めるのは、GBFファンドを預かるGEFに対する批判というのがあるのかもしれません。GEFは、USに本部があります、運営は理事会や総会等で決まっていくのですが、生物多様性のためだけの資金メカニズムではないこと(とはいえ、生物多様性への配分は、毎期毎増えつつあります)、また、アメリカが経済制裁等の対象とした国への送金が困難になるという状況が発生しています。GEFも大きな資金を動かす関係上、締約国の提案の質を見て、採否を決めるわけですが、途上国からしたら、人と時間を割いて提案書を描いたのに、資金が来ないということもあり、不満が募っている所です。

サイドイベントでは、国立公園の所感当局が、「自分たちは生態系管理をしないといけないのに、プロジェクト(1~3年が多く、10年などは少ない)提案が多く、提案書を描くのに疲れてしまうし、生態系管理と募集事業のミスマッチを感じている」と訴えていました。

COP16でこのギャップを解決することになります。Peace with Natureのキャッチコピーの元、平和的解決策は見いだせるのでしょうか。

このGlobal instrumentの議論にばかり注目してはならず、資源動員戦略も採択を期待されています。その中には、国際レポートでさんざん解決策の模索が提言されている「生物多様性に悪影響を持つ補助金等の改革」も入っています。この補助金改革の本気度もしっかり見ていく必要があります。

名古屋議定書に関する能力養成(議題5.b)

名古屋議定書に関する能力養成に関する専門家グループ中心にまとめた能力養成のための行動計画の採択を求める案をまとめました(COP16での協議のためbracket)

この行動計画の実施に必要な行動を国、機関、先住民地域共同体に求め、GEF等へのドナーへの支援を求める文案となっています。

この行動計画は、NP-COP8(COP19-2030年)で評価を行う決定案となっています。

専門家グループの活動も継続する案を出しています

行動計画(付属)は、目的、行動計画の対象(オーディエンス)、行動計画をどう活用するか、主要コンセプトと指導指針、協力と調整、行動計画のレビューの項目で整理したうえで、成果を出す分野と解説、その成果を出すために必要な行動(Output)、その行動に必要な能力養成活動を整理する形になっています。

  • 成果分野1:名古屋議定書の義務を実施・遵守する能力の強化
  • 成果分野2:アクセスと利益配分に関する国内の立法、行政、政策措置を策定、実施、執行する能力の強化
  • 成果分野3:相互に合意した条件を交渉する能力の強化
  • 成果分野4:名古屋議定書の実施に参加する先住民及び地域社会の能力強化
  • 成果分野5:遺伝資源の付加価値を高めるための、生物多様性に基づく内発的な研究開発を実施する能力の強化
  • 成果分野6:議定書実施のための包括的な政府全体及び社会全体のアプローチを促進する能力の強化

 

クリアリングハウスメカニズムと知識管理

両議題とも、行動計画をまとめています。

クリアリングハウスメカニズムは、砕いて言うとウェブサイトのようなもので、誰に向けにどんな情報をどんな狙いで発信するかということがまとまった文章です。CBDのウェブサイトですが、情報の元としては、締約国等からの情報提供が大事になります。文書を作成するにあたって、締約国やその他の機関だけでなく、科学技術協力支援センター(the regional and/or subregional technical and scientific cooperation support centres)にもクリアリングハウスメカニズム行動計画の実施を求める文章となっていました。

COP15決定に基づき選定を進めていたセンターは選定プロセス中で、カギカッコが付いていたのですが、28日のプレナリーで選定作業が終わりビューロで候補が決定したことが発表されました。最終の協力確認や契約ないし覚書等の取り交わし等手続きが残っていますが。

知識管理については、解説の通りですが、クリアリングハウスについては、2030年までのウェブサイト制作計画みたいなものです。大雑把な内容にも思えるのですが、事務局を方向付けるものとしてはこういう文書なのかもしれません。

能力養成および科学技術センター

能力養成長期計画はCOP15で採択されているので、その継続と実施状況の共有やモニタリング、第三者レビューの進め方や、この取り組みを進めるための事務局と非公式助言グループの連携を求める案を採択しました。

科学技術協力については、この間のプロセスで、SBI期間中に科学技術協力支援センターの指名が行われたのですが、このセンター間を調整する世界調整機関(the global coordination entity)については、CBD事務局が担うのか、他の国際機関が担うのかでまとまりがつかず、考えるための基準を議論する形で進行し、COP16での結論に先延ばしました。

ビューロで設定された科学技術協力支援センター

アフリカ

  • 北部 Sahara and Sahel Observatory (OSS)
  • 中央 Central African Forests Commission (COMIFAC)
  • 東部  Regional Centre for Mapping of Resources for Development (RCMRD)
  • 南 AFRICA South African National Biodiversity Institute (SANBI)
  • 西部 Ecological Monitoring Center (CSE)
  • カバーされていない国 アメリカ、カナダ

アメリカ

  • カリブ地域  Caribbean Community (CARICOM) Secretariat
  • 南部アメリカ Alexander von Humboldt Biological Resources Research Institute
  • 中央アメリカ Central America Commission on Environment and Development (CCAD)
  • 北部アメリカ 無し
  • カバーされていない国 アメリカ、カナダ

アジア

  • 東南 ASEAN Centre for Biodiversity
  • 南部 IUCN Asia Regional Office、IUCN West Asia Regional Office (IUCN ROWA)
  • 東部 Nanjing Institute of Environmental Sciences
  • 中央 Regional Environmental Centre for Central Asia (CAREC)
  • カバーされていない国 アフガニスタン、イラン、朝鮮民主主義人民共和国

オセアニア

  • メラネシア、マイクロネシア、ポリネシア地域 Secretariat of the Pacific Regional Environment Programme (SPREP)
  • カバーされてない国 オーストラリア、ニュージーランド

EU

  • 全域 European Commission – Joint Research Centre (JRC) 、Royal Belgian Institute for Natural Sciences
  • 南部 IUCN Regional Office for Eastern Europe and Central Asia (ECARO) 、IUCN Center for Mediterranean Cooperation
  • カバ―されていない国 Armenia, Andorra, Azerbaijan, Belarus, Georgia, Moldova, Monaco, Russian Federation, San Marino and Ukraine

コミュニケーション

GBFや生物多様性に関するコミュニケーション、教育、普及啓発(Communication, Education and Public Awareness)の議題では、アクションプランをまとめその実施を進める決定案が検討されました。

また、UNESCOとIUCN、IPBESが連携する形で、「生物多様性に関する教育の行動計画」というものを作成し、条約事務局としてその動きと連動することを求める案がまとまりました。IUCNはUNESCOと共に長らく、様々な教育の行動計画を作ってきたのですが、現在、Nature-based Educationというプロジェクトで、ESDや自然保護教育、自然体験教育等々を横つなぎして、互いの教育プログラムの水準を高める事業を展開しています。

アクションプランは特にターゲットの9, 10, 15, 16, 21, 22 and 23及び生物多様性プランのセクションK(パラグラフ22)毎に、条約事務局や締約国・ステークホルダーが何をすることが求められるかを整理しています

アクションプランの例

例を示すと、下記のような形になっています。J-GBF等で、しっかり検証することが重要かなと思う内容です

セクションKの22項(c)の記述

  • 枠組みを実施するために緊急に行動する必要性について、すべての部門および関係者の認識を高めるとともに、その目標およびターゲット達成に向けた実施と進捗状況の監視に積極的に関与できるようにする。

これに対する締約国による行動

  • 締約国は、適宜、先住民や地域コミュニティ、女性、若者を含めた枠組の実施と監視の必要性についての認識を高めるための国別コミュニケーション計画を策定するとよい。締約国は、関連する利害関係者に計画を普及させるべきである。
  • 締約国は、必要に応じて、生物多様性の国家戦略および行動計画の実施が、コミュニケーション計画と整合し、事務局長によって作成されたコミュニケーションガイドラインによって知らされるように努力することが奨励される。

利害関係者による行動

  • ステークホルダーは、事務局によって作成されたコミュニケーションガイドラインおよび各国のコミュニケーション計画の一部として作成されたガイドラインを、自らの活動やキャンペーンに活用し、生物多様性国家戦略および行動計画の作成と実施に適宜関与することが奨励される。

主流化長期戦略(議題10)

主流化戦略は、COP14から議論されてきた長期主流化戦略の要素のほぼ全てが生物多様性プランの実施でカバーされているという認識を示し、14, 15, 16、18、19、22、23の実施に当たって主流化の多様な選択肢が必要としました。

そのうえで、締約国に、主流化の推進を求めるとともに、優良事例や革新、課題や教訓を第7次国別報告書を通じて情報提供することを求めました。情報提供の仕組みとして、非政府国家主体の貢献については、[braket]がかかっています。

事務局に対しては、締約国や関係組織の情報提供を基に、欠けている所はないかの分析等を行い、更なる作業に関する2025-2030の議題(アジェンダ)を提案するよう求める案をまとめました。

しかし、読み合わせを反映しただけで、議論の時間がなく、COP16までに事務局に新たな作業を求める意見やそれは容認できないという意見などが出るほど、検討できてないというのが実情です。

国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平

*今回の国際情報収集・発信業務は、経団連自然保護基金、地球環境基金の助成、ならびに、IUCN-Jへのご寄付を基に実施しています。このような情報発信を継続するためにも、IUCN-Jの活動へのご寄付をお願いします