SBSTTA二日目となる5月14日は、午前に合成生物学の議題(議題5。前日からの継続)と遺伝子組み換え生物のリスクアセスメントと管理(議題6)、午後にリスクアセスの続きと遺伝子組換え生物の検出と同定(議題7)、海洋と重要海域(議題8)を扱いました。

合成生物学

合成生物学は、明確な定義が難しいのですが、遺伝子組み換え技術の一環と言える技術です。生物多様性条約が出来た1992年は、アメリカでフレーバーセーバー(Flavr Savr)という日持ちするように遺伝子組み換えされたトマトの商用栽培の承認がなされた年です。こういった遺伝子組み換え技術が持つ将来の可能性やリスクはまだ未知数でしたが、生物多様性条約の交渉過程の中で、国際的な管理が出来るよう生物多様性条約の役割の一つに遺伝子組み換え生物に関する国際ガバナンスが加えられました。COP16開催国のコロンビアの主要都市の一つであるカルタヘナ市で開催された締約国会議で、遺伝子組み換え生物に関する議定書(カルタヘナ議定書)を生み出しました。

食料安全保障の観点からの遺伝子組み換え生物への社会的期待と、その遺伝子組み換え生物が何らかの形で自然界に流出した場合の遺伝子汚染等の課題を調整するために、締約国会議やカルタヘナ議定書会合で議論を積み重ねてきました。

これまでの議論は、農地など一定の施設内での利用を想定した遺伝子組み換え技術であったのに対し、ゲノム編集という技術が進展するにつれて、野外放出を念頭においた活用が合成生物学の中で模索されてきました。そのため、従来のカルタヘナ議定書の範囲に入るかどうかといった議論もありました。

今回SBSTTAでの、議論の焦点は、合成生物学に関するホリゾンタルスキャニング(新規技術の最新現状や、社会・経済的な影響など多様な専門性から、技術を検証する手法)をめぐるものです。COP15以降ホリゾンタルスキャニングを実施し、自己抑制型昆虫(self limitaion Insects。定訳不明)といったデング熱やマラリアといった感染症を媒介する蚊の生息域に、不妊化あるいは卵を産んでも孵らない、遺伝子編集で生まれた卵から孵った2世代目の蚊を不妊化させるということを模索する技術です。殺虫剤による防除は、殺虫剤耐性をもったスーパーモスキートを生む可能性や人への健康の課題もある中で、ゲノム編集による手法は耐性を持つことが無いという指摘もあります(*1)

*1 Vollans Maisie and Bonsall Michael B. 2021The concomitant effects of self-limiting insect releases and behavioural interference on patterns of coexistence and exclusion of competing mosquitoesProc. R. Soc. B.28820210714
http://doi.org/10.1098/rspb.2021.0714

SBSTTA26に向けて行われたホリゾンタルスキャニングでは、上記、自己抑制型昆虫だけでなく、野生生物への自己拡散型ワクチン(Self-spreading vaccines for wildlife。定訳不明)やAIや機械学習による技術革新等の技術開発の傾向があることを指摘し、それぞれの技術の概要や特徴を、会議文書でまとめています。

主要な論点は、合成生物学に関するホリゾンタルスキャニングを定期的に実施するか、能力養成・科学技術協力・技術移転の強化(主として、先進国から途上国))、議題6のリスクアセスメントや管理の議論との連動方法(合成生物学の議題では扱わなくて良いという認識)などがあったかと思います。発言する国によって、気になる合成生物学の成果物が若干異なることも見受けられました。

合成生物学については、コンタクトグループの設立が、議長によって宣言されました。

リスクアセスメントと管理、遺伝子組み換え生物の特定と同定についてはカルタヘナ議定書関係のため解説は省略します。海洋の意見は3日目に一部持ち越されたので別ブログで紹介します。

国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平

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