基本コンセプト

背景

生物多様性は、母なる地球とバランスよく共生することを含め、人類の福利と健全な地球、そしてすべての人々の経済的繁栄の基本である。我々は食料、医薬品、エネルギー、清浄な空気と水、自然災害からの安全、レクリエーションや文化面でのインスピレーションを生物多様性に依存しているだけでなく、生物多様性は地球上のすべての生命システムを支えている。

昆明・モントリオール生物多様性枠組は、現在継続中の努力にも関わらず世界中で生物多様性が人類史上前例のない速度で劣化していることを示す大量の証拠を提供している、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)4の生物多様性及び生態系サービスに関する地球規模評価報告書、地球規模生物多様性概況第5版、及びその他多くの科学的文書へ対応しようとするものである。IPBESの地球規模評価報告書は次のように述べている。

本評価報告書で評価した動物と植物の種群のうち平均約 25%が絶滅の危機にある。これは推計100 万種が既に絶滅の危機に瀕していることを示唆している。生物多様性への脅威を取り除く行動をとらなければ、今後数十年でこれらの種の多くが絶滅する恐れがある。地球上の種の現在の絶滅速度は過去1,000 万年平均の少なくとも数10 倍、あるいは数100 倍に達していて、適切な対策を講じなければ、今後さらに加速するであろう。 人類にとって欠かすことのできない生物圏は、あらゆる空間規模で、これまでにない程に改変されている。生物多様性、すなわち同一種内の(遺伝的)多様性、種の多様性、生態系の多様性は、人類史上これまでにない速度で減少している。 自然の保全、再生、持続的可能な利用と世界的な社会目標は、社会変革に向けた緊急で協調した努力によって同時に達成することができる。 この変化の直接要因は、影響が大きい順に、土地と海の利用の変化、生物の直接採取(漁獲、狩猟含む)、気候変動、汚染、外来種の侵入である。これら5 つの直接要因は、さまざまな根本的な原因(間接的な変化要因)によって引き起こされる。さらに根本的な原因の背景には、(中略)社会の価値観や行動がある。直接要因と間接要因の変化の速度は地域や国によって異なる。

昆明・モントリオール生物多様性枠組は、戦略計画2011-2020とその成果、ギャップ及び教訓、並びに他の関連多数国間環境協定の経験及び成果に立脚しており、持続可能な開発のための2030 アジェンダとその持続可能な開発目標(SDGs)に則して2030年までに我々の社会と生物多様性との関係に変容をもたらす幅広い活動を実施するための野心的な計画を規定するものであるとともに、自然との共生という共通のビジョンの達成を2050年までに確保するものである。

目的

昆明・モントリオール生物多様性枠組は、社会全体の関与により、生物多様性の損失を止め反転させ、本枠組がビジョン、ミッション、ゴール及びターゲットの中で設定した成果を達成することにより、条約の3つの目的と議定書の実施に貢献するべく、政府、準国家及び地方政府による緊急かつ変革的な行動を触媒し、可能にし、そして活性化することを目的とする。この枠組みの目的は、条約の3つの目的をバランスのとれた形で完全に実施することである。

この枠組は行動志向かつ成果志向であり、あらゆるレベルにおける政策、ゴール、ターゲット、生物多様性国家戦略及び行動計画の改定、策定、更新及び実施を導き及び推進するとともに、あらゆるレベルにおいてより高い透明性と責任ある形で進捗状況のモニタリングとレビューを促進することを目的とする。

この枠組は、生物多様性条約とその議定書、他の生物多様性関連条約、その他の関連多数国間協定及び国際機関との間の整合性、補完性及び協力を、それぞれの権限を尊重しながら推進するとともに、この枠組の実施を強化するために多様な主体の間で協力とパートナーシップの機会を創出する。

枠組の実施についての考慮事項

昆明・モントリオール生物多様性枠組は、ビジョン、ミッション、ゴール及びターゲットを含めて、以下に整合する形で理解され、行動され、実施され、報告され、評価される:

先住民及び地域社会の貢献と権利
この枠組は、生物多様性の管理者及び保全、回復及び持続可能な利用におけるパートナーとしての先住民及び地域社会の重要な役割と貢献を認識する。この枠組の実施は、関連する国内法、先住民族の権利に関する国連宣言7を含む国際文書及び人権法に従った、意思決定における完全かつ効果的な参加を通じるなどして、先住民及び地域社会の権利、生物多様性についての伝統的知識を含む知識、イノベーション、世界観、価値観及び慣行が、尊重され、文書化され、自由意思による、情報に基づく事前の同意8を得て保存されることを確保しなければならない。この点について、枠組のいかなる内容も、先住民が現在有しているか将来獲得する可能性のある権利を制約又は消滅させるものと解釈されるべきではない。
様々な価値の体系
自然は、生物多様性、生態系、母なる地球、生命システムなど、様々な人々の様々な概念を体現している。自然の寄与は、生態系の財やサービス、自然の恵みといった様々な概念を体現している。自然と自然の寄与はどちらも、人類の福利、自然との共生、母なる地球との調和のとれた共生を含め、人類の存在と良質な生活にとって不可欠なものである。この枠組は、これらの多様な価値の体系と概念が、自然の権利や母なる地球の権利を認識する国にとってはこれらも含めて、実施の成功に不可欠な一部であると認識し、考慮する。
全政府的及び全社会的アプローチ
この枠組は、すべての主体~政府全体及び社会全体~のためのものである。枠組の成功は政治的な意思と政府の最高レベルの認識を必要とし、あらゆるレベルの政府とすべての主体による行動と協力にかかっている。
各国の状況、優先事項及び能力
この枠組のゴールとターゲットは、その性質上地球規模なものである。各締約国は、自国の状況、優先事項及び能力にしたがって、この枠組のゴールとターゲットの達成に貢献する。
ターゲットに向けた集合的努力
締約国は、広範な市民的な支援をあらゆるレベルで動員することにより、この枠組の実施を促進する。
発展の権利
1986 年の発展の権利に関する宣言9を認識し、この枠組は、生物多様性の保全と持続可能な利用にも同時に貢献する、持続可能で責任ある社会経済面での発展を実現する。
人権に基づくアプローチ
この枠組の実施は、人権を尊重し、保護し、推進し、実現する人権に基づくアプローチに従うべきである。枠組は、クリーンで健康的で持続可能な環境に対する人権10を認識する。
ジェンダー
この枠組の実施の成功は、ジェンダー平等と女性と女児のエンパワーメントの確保及び不平等の低減による。
条約の3つの目的と議定書の達成とバランスのとれた実施
この枠組のゴールとターゲットは一体であり、生物多様性条約の3つの目的にバランスよく寄与するように意図されかつ統合されている。枠組は、条約のこれらの目的、条約の規定、該当する場合はカルタヘナ議定書、名古屋議定書に従って実施される。
国際的な協定または法的文書との一致
この生物多様性世界枠組は、関連する国際的な義務に従って実施される必要がある。この枠組のいかなる内容も生物多様性条約もしくは他のいかなる国際協定の締約国の権利や義務の修正に合意したものと解釈されるべきではない。
リオ宣言の原則
この枠組は、すべての生き物のために生物多様性の損失を反転させることが人類に共通する関心事項であると認識する。この枠組の実施は環境と開発に関するリオ宣言の原則11によって導かれる。
科学とイノベーション
この枠組の実施は、科学、技術及びイノベーションの役割を認識しつつ、科学的根拠と伝統的知識及び慣行に基づく。
エコシステムアプローチ
この枠組は、条約のエコシステムアプローチ12に基づいて実施される。
世代間衡平性
この枠組の実施は、将来世代が自らのニーズを満たす能力を損なうことのない形で今の世代のニーズを満たすことと、あらゆるレベルにおける意思決定への若い世代の意味ある参画を確保することを目的とする、世代間衡平性の原則によって導かれる。
公式及び非公式の教育
この枠組の実施には、先住民及び地域社会の多様な世界観、価値観、知識体系を認識しつつ、科学と政策の接点に関する研究及び生涯学習プロセスを含む、あらゆるレベルでの、公式及び非公式での、変革的で、革新的で、学際的な教育が必要である。
資金へのアクセス
この枠組の完全な実施には、十分で、予測可能かつ容易にアクセスできる資金が必要である。
協力と相乗効果
生物多様性条約とその議定書、他の生物多様性関連条約及び国際機関や国際プロセスとの間で、世界、地域、準地域及び国内のレベルを含めて、それぞれの権限の範囲内で、連携、協力及び相乗効果を強化することは、より効率的かつ効果的な形でこの枠組みの実施に貢献し、推進する。
生物多様性と健康
この枠組は、生物多様性及び健康、並びに本条約の 3 つの目的との間の相互関連性を認識する。この枠組は、生物多様性に関係する医薬品、ワクチン及び他の医療製品を含むツールと技術への衡平なアクセスの必要性を認識し、健康に対するリスクを減らすために生物多様性への影響を低減して環境の劣化を軽減することといった緊急の必要性を強調しつつ、必要に応じて実際的なアクセスと利益配分の体制を構築し、他の包括的アプローチに加えて、科学に基づき、多様なセクター、領域及びコミュニティーを動員して協力し、人、動物、植物及び生態系の健康を持続可能な形で調和・最適化することを目的とするワンヘルスアプローチを考慮して実施される。

持続可能な開発のための2030アジェンダとの関係

昆明・モントリオール生物多様性枠組は、持続可能な開発のための2030アジェンダの達成に貢献するものである。同時に、持続可能な開発目標(SDGs)に向けた進捗及びその3つの側面(環境、社会及び経済)すべてにおける持続可能な開発の達成が、この枠組のゴールとターゲットを達成するために必要な条件を創出すために必要である。この枠組は、生物多様性と文化的多様性の間の重要なつながりを認識の上、生物多様性、その保全、その構成要素の持続可能な利用、及び遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な分配を、持続可能な開発アジェンダの中心に据える。

変化の理論

昆明・モントリオール生物多様性枠組は、持続可能な開発を達成し、生物多様性の損失を悪化させている好ましくない要因を減らし及び/もしくは反転させ、すべての生態系が回復し、条約のビジョンである2050年までの自然との共生を達成できるようにするためには、世界、地域及び国のレベルで緊急的な政策行動が必要であることを認識する変化の理論に基づいて構築されている。

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