「Unite for Nature on the Path to 2045」は、今回のCongressの目玉の一つです。通常、IUCNでは4年に1度の総会で、4か年の計画を定めてきましたが、さらに長い、長期の方針を定めました。これは、2021年の世界自然保護会議@マルセーユで、作成を求める内容のモーションを採択した結果として作られました。

議題の中では、この文書を歓迎するとともに、その実施や内容に協力をする声が上がりました。形だけの文章にせず、どう実現するか、指標や評価の仕方、ユース参画を書き込んだことへの謝意などが述べられました。

「Unite for Nature on the Path to 2045」

1. 背景と目的

IUCN(国際自然保護連合)は、政府機関・市民社会団体あわせて1400超、専門家1万8000名から成る世界最大の自然保護ネットワークであり、「公正で自然を大切にする世界」をビジョンに掲げる。
本戦略文書は、マルセイユ会議(2021年)の決議に基づき、気候変動、生物多様性喪失、不平等、資源消費など地球規模の複合危機に対応するため、2025年から2045年にかけてIUCNが果たすべき方向性を定めたものである。4年ごとに更新されるIUCNプログラム(次期は2026–2029)と連動し、長期の道筋を示す。

2. 基本理念と目標

IUCNは、次の3つの柱でトランスフォーメーション(社会変革)を推進する。

  • 自然と生物多様性の効果的な保全
  • 生物多様性・水・食料・健康・気候変動の相互関係への対応
  • 公正で包摂的な社会の実現

これらを通じて、「人と自然の関係の再構築」を目指し、自然を社会・経済システムの中心に据える。IUCNは科学・データ・政策・現場行動を統合する“信頼される声(trusted voice for nature)”としてリーダーシップを強化する。

3. 4つの変革(CHANGE)と重点分野

CHANGE 1:スケールアップ(Scaling Up)

IUCNの既存の活動を5分野で拡大する:
①種レベルの保全 ②効果的な地域・海域保全(30×30目標等) ③生態系の保全と再生 ④気候変動など地球規模変化への対応 ⑤権利・公正に基づく保全アプローチ。
科学的データに基づく包括的な保全を進め、地域社会の知見や伝統的知識を活用する。

CHANGE 2:トランスフォーメーション(Transforming)

生物多様性損失の根本要因に対応するため、8つの変革領域を特定:

  • 気候変動の緩和と適応
  • 自然と調和した金融・経済システムの整備
  • 食料システムと持続可能な農業
  • ワンヘルス(人・動物・自然の健康(健全)の統合的管理)
  • 公正なエネルギー転換
  • 持続可能な都市
  • 再生につながるブルーエコノミー
  • 水の安全保障とスチュワードシップ。

これらは相互に連関しており、特に気候、金融、健康、水資源が横断的課題として重視される。

CHANGE 3:モビライジング(Mobilising)

IUCNが変革を実現するための「6つの触媒的役割」を定義:

1.協働とネットワーキング、2. 科学・知識・データの提供、3. 政策提言とアドボカシー、4. 能力強化、5. 資金動員、6. 教育と意識啓発。
特に若者と先住民のリーダーシップ育成、自然を通じた教育(Nature-based Education)の推進を掲げる。

CHANGE 4:資源動員(Resourcing)

IUCNを「One Union」として統合的に運営し、より柔軟で革新的なネットワークに進化させる。ODA依存から脱し、多様で持続的な資金基盤を確立。AIやビッグデータなど新技術を導入して、科学的根拠に基づく迅速な意思決定を支える。民間セクターや教育機関との協働も拡大し、自然を軸にしたビジネスモデルを促進する。

4. 人権・公平性・ジェンダー

IUCNは、環境正義を基盤に、先住民や地域コミュニティの権利を尊重し、意思決定への参加を支援する。ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを「持続可能な発展の前提条件」と位置づけ、若者を自然保全の担い手として育成する。

5. 実施と展望

この20年ビジョンは、地域ごとに柔軟に適応され、4年ごとのプログラムで具体化される。IUCNは「科学・包摂・権利・公正・協働・成果」を価値の中核に据え、結果重視の行動型組織へと進化することを目指す。
2045年には、「自然の価値が人々の幸福の基盤として真に評価される世界」を実現し、IUCNはその転換を牽引する存在となることを掲げている。

国際自然保護連合日本委員会 道家哲平