
IUCN世界自然保護会議の二日目にあたる10月10日から、非常に数多くのセッションが朝8時半から夜9時までANDECセンターアブダビのあちこちで企画されました。私が確認できた発表だけでも下記があります。
- IUCNレッドリスト2025‐02の発表 世界の鳥類の半分が減少傾向
- ESRIとの協働で実現したNature-based Education GeoPortalの発表
- Nature-based Solutionsのグローバルスタンダード更新(2nd)版の発表
- 世界生態系アトラスの発表
- 企業の開示とネイチャーポジティブに向けた行動と報告を支援するIUCN-RHINOの発表
IUCN-Congressはまだ2日目を迎えたばかり。これからどんな発表や議論が行われるか非常に楽しみです。
主要発表の中の2番目、Nature-based Education GeoPortalの発表を紹介します。
世界中で「環境教育」や「ESD(持続可能な開発のための教育)」という言葉が広がっています。しかし、その多くの中で――「自然」そのものが置き去りにされてはいないか?
Nature-based Education(NbE)は、そんな問いかけから始まりました。教育の根っこに自然を取り戻し、自然の中で、自然とともに学ぶことを大切にする新しい教育の潮流です。
自然と地理をつなぐパートナーシップ:ESRIとの連携
セッションでは、NbEと地理情報システム(GIS)の世界的リーダー ESRI(Environmental Systems Research Institute) との提携なされたことが発表されました。ESRIは「場所こそが学びの出発点」という理念を掲げ、地理学を「最も重要な科学」と位置づけています。自然を相手にする教育は、必ずどこかの“場所”で生まれる。だからこそ、ESRIの技術と哲学がNbEのビジョンに深く共鳴したと説明がありました。
ESRIはこの提携を通じて、約1,000万ドル(10M USD)相当の技術支援・提供を行うことを発表。GISやデータ、教育プログラムを通して、NbEの理念を世界に広げる基盤をともに築いていくとしています。
「GeoPortal」──自然から学ぶための世界地図
このパートナーシップの象徴として 「Nature-based Education GeoPortal(NbE GeoPortal)」を新たに立ち上げることも発表されました。IUCN(国際自然保護連合)とESRIの協働により開発されたこのプラットフォームは、自然と学びをつなぐ「地図」のような存在です。
GeoPortalでは以下のような多彩なコンテンツが展開されていく予定です。
- NbSアトラス(Nature-based Solutions Atlas):世界中の自然に基づく解決策を地図で見る
- 学びの素材データベース:iNaturalist、Global Water Balance、BeHopeなど多様なデータを統合
- “Learn from our Heroes”:世界各地で自然から学ぶ実践者たちの物語を紹介
- 教育の階段:学びの段階を踏みながら、やがて自然を仕事にできるようなキャリア形成支援
- このGeoPortalは、好奇心と驚きの力を呼び覚ます学びの場として、世界中の教育者や学生がアクセスできるよう設計されています。
ネットワークとしての「国際センター」構想
イベントでは、NbEの新しい展開として、国際センターの設立構想も発表されました。
これは単なる物理的施設ではなく、世界中の教育機関・動物園・水族館・地域社会・市民団体などをつなぐネットワーク型のプラットフォームです。
カナダや中国ではすでにNbEセンターの立ち上げが始まり、ラテンアメリカでも同様の動きが見られます。ESRIのショーン氏は、「NbEをIUCNの20年ビジョンや4か年プログラムの中核に据え、新しいスキルとネットワークを育てていきたい」と語りました。
そして、 未来に向けては、AIを活用してカリキュラム開発や教育素材の共有を進める構想もあるようです。自然を真ん中に置いた教育――それは、知識を教えることにとどまらず、「自然と共に生きる力」を育てること。ESRIとの連携を通じて、Nature-based Educationは、データとテクノロジー、そして人の感性をつなぐ新しい地平を切り拓こうとしています。
国際自然保護連合日本委員会 道家哲平