2026年2月、CBD(生物多様性条約)の補助機関会合であるSBI(Subsidiary Body on Implementation)第6回会合(SBI-6)がローマで開幕しました。SBIは、科学技術助言を扱うSBSTTAと異なり、「実施(implementation)」に関連する議題が交渉される会合です。
昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)の採択後、各国はNBSAP(国家生物多様性戦略)・国別目標・国別報告書・資金動員・能力養成といった「実施」が展開し始めていますが、進捗は依然として大きなばらつきがあります。その意味でSBI6は、COP17(アルメニア)での「実施の中間点検」へ向けて、基盤を整える会合です。
初日の進行:SBI6は主要議題のファーストリードを一気に実施
SBI6初日は、これまでの補助機関会合と比較すれば、開会直後から非常にテンポの速い進行で、主要議題の「ファーストリード(first reading)」が次々と行われました。対象となった議題は以下のとおりです。
- 資源動員(Resource Mobilization)
- 資金メカニズム(Financial Mechanism:GEF)
- PMRR(Planning, Monitoring, Reporting and Review)
- ジェンダー行動計画(Gender Plan of Action)の中間レビュー
- 能力養成(Capacity-building and development)および技術・科学協力(TSC)
- さらに、初日にはアルメニア政府(COP17議長国)によるCOP17準備状況の紹介も行われました。
SBI6で目立った工夫:全議題で事前意見提出が行われた
今回のSBI6で特筆すべきは、ほぼ全議題について、事前に各国・オブザーバーからのサブミッション(意見提出)が行われた点です。前回のSBSTTA27で初めて事前提出が実施されましたが、2議題だけの試行という形でした。しかしSBI6では、資源動員・資金メカニズム・PMRR・ジェンダー・能力養成といった主要議題すべてで事前意見が提出され、初日の議論でもその扱いが明確に整理された。
具体的には、
- 事前提出意見を「正式な意見」として扱うか
- オブザーバー提出意見について、各国が支持するか(=CRP文書への反映可能性)
といった点が、議事進行の中で明示的にかつ迅速に行われました。

オブザーバー意見と採用についてテンポよく確認されました
この結果、SBSTTAに比べると、ファーストリードにかける時間が大幅に削減され、二日目以降のCRP文書(Conference Room Paper)を対象とした“交渉そのもの”に時間を割く工夫が見られました。
議題別:今週の交渉の論点整理(サブミッションに基づく)
以下では、初日にファーストリードが行われた主要議題について、議題資料および提出された各国・オブザーバーのサブミッションをもとに、今週の交渉の注目点を整理する。
議題3a 資源動員(Resource Mobilization)‐論点は「資金の出し手の拡大」と「制度設計」
資源動員は、SBI6全体の中でも最も注目が高い議題です。GBFの実施には資金が不可欠である一方、COP16以降も、先進国と途上国の間で「責任」「新規・追加の資金」「拠出主体」の議論が続いています。
初日の議論を見る限り、SBI6の論点は大きく3つに整理できそうです。
論点①:拠出主体の拡大(broadening the contributor base)
COP15以降ずっと、先進国は、資源動員を「先進国政府の拠出」に限定せず、民間、金融、慈善、その他ソースを含めるべきと強調しています。日本もこの方向性を支持しています。
一方で、途上国側は先進国の(条約20条)「義務の希釈」につながるとして慎重な姿勢(あるいは先進国へのけん制)。
論点②:既存資金の効果(effectiveness)とシナジー(相乗効果)
資金を増やすだけでなく、既存資金の効果を高めること、気候資金等とのシナジーをどう扱うかという論点。ただし、気候条約との制度的役割分担(mandate)をどう整理するかは、引き続き、繊細な論点となりそう。
論点③:新たな研究(債務、気候資金)の扱い
資源動員議題では、債務持続性と生物多様性資金との関係や気候資金の分析研究が含まれている。ただし、「債務と生物多様性を結びつける議論は混乱を招く」として慎重を求める発言もある。
議題3b 資金メカニズム(Financial Mechanism:GEF):争点は「GEFガイダンスの強さ」と「アクセス改善」
資金メカニズム議題は、GEFに対する「追加ガイダンス」をどの程度具体化するかが中心となりそうです。
注目点は以下。
論点①:GBF実施の資金需要に対し、GEFが十分か
途上国・オブザーバーは、GEF資金が不足しているだけでなく、申請手続やアクセスの困難さが実施を妨げていると指摘する声が初日は(いつものように)大きかったです。また、ジェンダーグループ、先住民地域共同体等は、資金アクセスの障壁を指摘する声がありました。
論点②:GEFの運用評価(4年レビュー)の評価軸
拠出額だけでなく、人権・ジェンダー等の成果を評価軸に入れるべき、という主張も強い。
論点③:GBF Fundの位置づけ
GEF内部にできたGBF Fund(信託基金)について、追加資金をどう積み上げるか、どの主体が拠出するか、途上国側の関心が高く、先進国からの資金を中心としつつも、補完的機関としてのGBFFに言及する発言が見られました。
議題4 PMRR:COP17レビューに向けた「提出促進」と「質の確保」のせめぎ合い
PMRR(Planning, Monitoring, Reporting and Review)は、GBF実施の中核になります。いわゆるPDCAサイクルと考えてもらってよいでしょう。そのため、SBSTTAでもSBIでも視点を変えて常に議題に組み込まれています。プラン(生物多様性国家戦略の策定)、モニタリング(指標をCOP16で採択)、報告(2026年2月末が報告締め切り)、評価(COP17で実施)というステップないしサイクルが重要となります。
初日の議論をまとめると、各国の関心は次の3方向に分かれていそうです。
方向①:提出促進
EUや日本は、2026年2月末の7次国別報告書(7NR)提出期限を強く意識し、提出促進と情報の質向上を重視する。
そのためのオンライン報告ツール(online reporting tool)の改善も共通論点といえそうです。
方向②:現実性と支援(ブラジル、PSIDS、アフリカなど)
途上国や小島嶼国は、期限遵守よりも、指標方法論の未整備、データ不足、能力不足を強調し、技術支援・能力構築・資金支援を求める傾向が強かったです。
方向③:権利・包摂(IIFB、GYBN、Women’s Caucusなど)
オブザーバー側は、PMRRが「数字を出す制度」に偏り、Section C(権利、包摂、ジェンダー、世代間衡平)が実装されていないと批判する。
特に、先住民や若者、女性がどのようにNBSAP策定や報告に参画したかを、報告の必須要素として入れるべきという主張が目立つ。
議題5 ジェンダー行動計画(GPA):争点は「資金」「データ」「制度化」
GPA(Gender Plan of Action)は、GBFのターゲット23とも連動する横断議題です。サブミッションを見る限り、SBI6の争点は次の3点に整理できそうです。
論点①:ジェンダーを“参加”にとどめず、権利と資源アクセスまで含めるか
ブラジル、Women’s Caucus、PSIDS、IIFBなどは、ジェンダーを単なる参加の話ではなく、土地・資源・金融・意思決定へのアクセス格差を含むと明確に主張しています。どこまで強いメッセージが作れるか関心があります。
論点②:gender-disaggregated dataの不足
ほぼ全主体が、ジェンダー関連データが不足しており、レビューが不十分という課題を指摘してされていました。ただし、データ提出を各国への要求に強く含めるなら、能力構築をセットにすべきという指摘もありました。
論点③:事務局タスクと追加予算
GPAの中間レビューは、能力構築ワークショップ等を含む追加予算要求とセットで議論されています。予算縮減案を出すなど、先進国側では財政負担への慎重姿勢も見えました。
議題6 能力養成(Capacity-building / TSC):最大の争点は「追加のグローバル分析」の是非
議題6(能力養成および技術・科学協力)は、GBFターゲット20に関係する議題です。この議題の途中で初日が終わってしまったので、明日以降、主要論点を整理します。
おわりに:初日は「交渉の加速」に向けたサインが示された
SBI6初日は、各議題についてファーストリードが一気に行われ、また、最後にCOP17に向けたアルメニア政府主催のメッセージが披露されました。そこでは、GBFの中間評価が、多様なセクターも含めてなされ次の行動への当事者意識が高まることを目指したいとのメッセージが強かったように思います。また、企業がこれまで以上に注目されるCOPになると指摘する国もありました(IPBESのビジネスアセスメントの発表の影響も大きいと思います)
そういう意味で、COP17に向けて、COP15-16 間よりもより工夫して、交渉と決定、そしてそれに続く「実施」への期待が高まる一日だったと思います(ただ、同床異夢というべきか、先進国と途上国のギャップの大きさは、このSBI6で見えてくると思います)
特に今回、全議題で事前サブミッションが提出され、それを交渉の入口で正式に扱う進行が採用されたことで、SBSTTAと比べても、議論の立ち上がりが速いという印象を得ました。もちろん、資源動員・資金メカニズム・PMRR・ジェンダー・能力養成は相互に強く連動しており、単独議題としてだけでなく、連動する議題としての課題もまだまだ議論が必要そうです。
二日目以降の報告では、CRP文書を中心とした議論の状況をお伝えできると思います。
国際自然保護連合日本委員会 道家哲平





















