今回のIUCN Congressでは、初のビジネスサミット、IUCNビジネスパビリオン・ネイチャーポジティブパビリオンなどの展示会場を中心に、ビジネスに関連したプログラムが数多く開催されました。ビジネス団体はIUCNの会員になれませんし、過去のCongressではビジネス関連のプログラムは限られていました。しかし近年、IUCNがビジネス連携の強化を打ち出したことから、今回のCongressでの動きになっているのだと認識しています。

参加したビジネス関連プログラムの中から、生物多様性クレジットに関連する内容をご紹介します。

 

[生物多様性クレジットまたは証明書:完全性(Integrity)基準とオフセットの事例]

10/9 16:30-18:00に、主催:IUCNフランス国内委員会、共催:フランス国立自然史博物館、WWFフランス、Conservation International(CI)、Carbon4、生物多様性クレジット連合(BCA)で開催されました。

テーマは「定義」と「高品質(High Integrity)」です。

 

<定義>

生物多様性クレジットについてはBCAの定義「生物多様性クレジットとは、測定され、証拠に基づいた、持続可能で、本来であれば得られたであろう成果に追加される、生物多様性に関する肯定的な成果の単位を表す証明書である。」が引用されました。また、プログラムタイトルにある「生物多様性認証」については、「生物多様性クレジット」とは異なるもので、代償(compensation)に用いるものであり、EUでは市場取引の対象にしないよう想定されている、と説明されました。さらに、CIから生物多様性だけでなく土地や水を含む概念として自然クレジットが紹介されました。

これらの説明は、生物多様性クレジットに関する根強い批判が考慮されていると感じました。その一つが「認証」と呼び、市場取引できない形にすることです。これにより、NGOを中心に強い反発がある「生物多様性オフセット」及びその市場化とは関係が無いと主張している点です。もう一つが、生物多様性の価値が測定困難であることを踏まえ、「自然クレジット」を設定し、測定可能な指標群(例:土地面積(ha)、水使用量(m3))を用いることを可能にしている点です。

 

<高品質>

BCAは生物多様性クレジットに関する国際諮問委員会(IAPB)及び世界経済フォーラム(WEF)と共に、2025年10月に「高品質な生物多様性クレジット市場枠組」を発行しています。それを踏まえて、議論では生物多様性クレジットが「高品質」であることが必須であるという前提で議論が進められていました。課題として挙げられたのは「測定・観測のレベル設定」「グリーンウォッシングとならない主張(claim)」「先住民族と地域共同体(IPLC)による測定・観測の際の(西洋)科学的能力・知識の欠如」(注:(西洋)は筆者が追加)でした。二つ目は定義の議論においても語られたことです。一つ目と三つ目は、なかなか根深い問題と言えます。生物多様性クレジットが高品質であるためには、より正確な評価が必要になりますが、それは自然と共生してきたIPLCが持つ伝統的知恵(TK)に基づくものでは無く、西洋文明が培ってきた自然科学に基づいて行われているという現状があります。生物多様性クレジットだけでなく、自然保護のさまざまな場面でIPLCの尊重や参画が必要であるという声がある一方で、その前提として用いられているのが自然破壊に大きく加担してきた西洋文明であるというのは、なかなか皮肉なものだと思います。とはいえ、IAPBとBCAは生物多様性クレジット市場の形成に向けてIPLCとの協働を進めているとの説明もありましたので、今後の改善に期待したいと思います。

 

まとめとして、生物多様性クレジットについて、昆明・モントリオール生物多様性枠組の目標達成に欠かせないこと、その普及には幅広い民間資金からの需要喚起が求められること、高品質であることが必須であること、それらを担保するために法規制の構築が必要であること、が語られました。

 

 

その他にも、連日生物多様性クレジットに関するプログラムが開催されました。以下、簡単にご紹介します。

 

[自然市場の加速 – 保全金融に関する対話とコーヒー]

10/9 18:30-19:15(19:30まで延長)に、主催:The Nature Conservancy(TNC)、共催:Conservation Strategy Fund(CSF)、CIで開催されました。

ここでも生物多様性クレジットが高品質であることの重要性が示唆されました。また、生物多様性クレジットの需要喚起が必要であるとの主張が印象的でした。

[生物多様性クレジットを保全のための新たなツールとして理解する:限界と機会]

10/11 11:00-12:30に、主催:IAPB、BCA、共催:IUCN、IUCN生態系管理委員会、WWF International、CI、WEF、ヨーロッパ・エトランジェール省(フランス)、International Environment Guardianship(IEG)で開催されました。

ここでも生物多様性クレジットが高品質であることの重要性が示唆されました。生物多様性クレジットの将来市場規模は20億~690億米ドル(約3~105兆円)と試算されており、上記サイドイベントでの需要に関する予測との乖離があるように感じました。これは、クレジットの創出には熱心だが、購入動機がまだ弱い、と考えることができます。

[生物多様性証明書]

10/12 15:00-16:00に、主催:IUCNフランス国内委員会、共催:フランス国立自然史博物館、WWFフランス、Conservation International(CI)、Carbon4で開催されました。

英語での開催とウェブの案内に書いてあったのですが、フランス語での開催でした。展示会場に用意されていた翻訳機(スマホ+アプリ)は会場のWifiの帯域が足りないことが原因で使えなかったので、途中で参加を断念しました・・・。

宮本育昌
NPO法人アースデイ・エブリデイ