生物多様性条約第27回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA27)にインターンとして参加しています。今回は、フィンランドとオランダのユース代表によって主催されたサイドイベントについてレポートします。
当イベントでは、農業の持続可能性に関する課題と解決策について、様々な視点から議論が交わされました。
現状の課題:低収入と若者の農業離れ
オランダのユース代表より、現在の食料システムが抱える問題点が提示されました。
- 利益の不平等: チョコレート産業の例では、利益の90%以上が流通や小売に渡り、カカオ農家の利益はわずか6.6%に過ぎないという厳しい現状が示されました。
- 農業従事者の高齢化: 多くの国で農業従事者の高齢化が深刻化していると指摘されました。ポルトガルでは、35歳以下の農家はわずか6%に対し、65歳以上が47%を占めるといいます。
- 農業の負のイメージ:農業に対して「貧困」のイメージを持つ人々は少なくなく、若者参入の障壁になっていると指摘されました。
これらの課題を解決し、将来世代に今と変わらぬ食料や農業産物を残していくためにも、若者の参入を促すためのイノベーションが必要です。
ケーススタディ:ケニアのアグロフォレストリー事業
ケニアのユースであるフィオナ氏が、農業人口を増やすために行っている活動について発表しました。単一栽培的農業からアグロフォレストリー(※)への移行を促すことで、生物多様性回復に貢献しつつ、農業のブランド価値をあげていく試みです。
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(※)アグロフォレストリー 農業と林業を一つの場所で同時に行うような事業のこと。樹木と農作物を同じ場所に植えることで、自然の生態系に近い環境がうまれるため、生物多様性の保全に役立つとされている。 |
- 課題: 彼女が活動するケニアのカジャド地域では、「農業は貧しい人の仕事」という認識から、多くの若者が都市へ流出しているといいます。
- 活動: 彼女は大学在学中にNPOとエコ企業を設立し、薬草栽培と養蜂を組み合わせたアグロフォレストリーを推進しています。
- 薬草栽培:ケニア在来で、かつ薬用となる1,200種以上の樹木やハーブを栽培。
- 養蜂: 栽培する薬用樹木の間で蜂を飼い、「薬用ハチミツ」を生産・販売。
- 種の保存: 在来種の種を保存し、農家間で共有。地球規模の問題である生物多様性保全に寄与。
- ユースの教育:ユースの関与機会を増やすため、フィールドコースやワークショップを頻繁に開催。
また、先住民の伝統技術や、科学知識を活用したクリエイティブな製品の開発が奨励されているようです。中毒性のないタバコやリラクゼーションオイルなどがすでに開発された商品として紹介されました。これらにブランド価値を持たせて販売し、利益を生み出すことで、地域の発展、雇用創出、そして農業に対する「尊厳」を生み出しているようです。
課題解決に向けて:各地の様々な視点
イベントの最後には、サイドイベント参加者全員を巻き込んだワークショップ(フィッシュボウル)が行われました。若者の農業従事者を増やす上での課題と施策について、各自の体験等を交えた議論が展開されました。
- メキシコやイタリアの参加者からも、「農業は儲からない」「時代遅れだ」という社会的な認識を変えることが重要であり、かつ最も困難であるという意見が出ました。
- オーストラリアの先住民の参加者から、土地との精神的なつながりや、文化的・慣習的に受け継がれてきた伝統的知識の重要性が強調されました。彼は、これらをうまく活用できれば、若者の関心があつまるような新技術や新製品を生み出せるとし、課題解決のきっかけになると主張しました。
- 持続可能な製品を選ぶ消費者の意識改革と、学校での食と農のつながり(土壌の健康と人間の健康など)に関する教育が不可欠だという指摘がありました。
「当たり前の食卓」を未来へ繋ぐために
私たちが豊かな食生活を享受し繁栄していく上で、食料生産を担う農業は必要不可欠です。しかし、若者の農業離れが続けば、農業は確実に衰退していきます。今を生きる私たちの「当たり前の食卓」を支える食材が、近いうちに生産できなくなるかもしれません。この危機的な未来を避けるためには、農業に対する古い固定観念や時代遅れな考え方を打破する必要があります。若者は、単に農業を次世代へ継承するだけでなく、革新的な視点と伝統的な知恵を融合させ、持続可能な未来の農業を牽引する重要な担い手となるでしょう。彼らがその能力を最大限に発揮できる環境を整備し、農業が魅力ある産業として再び輝きを放つよう、社会全体で支援していくことが求められます。
筑波大学大学院/IUCN-Jインターン
福井涼士






















