生物多様性条約第27回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA27)の3日目、グローバル青年生物多様性ネットワーク(GYBN)が主催したサイドイベントをレポートします。

GYBNは生物多様性条約(CBD)における公式のユース団体です。イベントでは、生物多様性の損失が若者や未来世代に不釣り合いなほど深刻な影響を与えているという問題意識から、「世代間公平(Intergenerational Equity)」をテーマに議論が交わされました。

ちなみに、IUCNでは「ユース」を15〜35歳までの人々と定義しています。また、日本ではユースという言葉に対して学生的なイメージがあることを踏まえ、IUCN-Jではユースを「将来世代」と呼んでいます。

GYBNによる主な活動報告

GYBNは、「世代間公平」を2つの側面で定義しています。

  • 未来世代との公平 (Equity with Future Generations): まだ生まれていない世代が、現在世代と同様に、健全で持続可能な環境を享受する権利を保障すること。
  • 現世代内の公平 (Equity within the Present Generation): 現在の若者世代が、自分たちに影響を与える意思決定プロセス(政策決定など)に、今すぐ完全かつ効果的に参加できる権利を保障すること。

これらの公平性を実現するため、以下の活動や政策提言文書を作成したことを報告しました。

  • ユースレスポンシブ(※)なモニタリング (Youth-Responsive Monitoring): 若者の保全活動への貢献はデータに表れていないと指摘されました。各国が若者の参加を測定・監視できるように、具体的な指標やモニタリング手法に関する政策提言を作成しています。

    (※)ユースレスポンシブ:

    ユースという立場に由来する不平等の構造を把握し、その是正を念頭に置くこと。

  • NBSAP(国家生物多様性戦略)改定への参加: 昆明・モントリオール世界生物多様性枠組(KMGBF)の実施に伴い、各国の若者が自国のNBSAP改定プロセスに関与するためのデジタルガイドを作成し、各国支部を支援しています。
  • 各種機関との連携: UNEP(国連環境計画)やIUCNなどと連携し、若者の視点を政策に反映させるための共同プロジェクトを進めています。

このようなGYBNの働きかけにより、CBDの公式プロセスにおける若者の発言権が強化されたとし、実際に20カ国以上で若者がNBSAPの改定に関与するなど、具体的な成果が出ていると強調しました。

ユースの視点からみる世代間公平実現の障壁

セッションでは、異なるバックグラウンドを持つユースが集まり、世代間公平の実現について意見が交わされました。

  • 生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)の連携評価文書執筆者であるNadia Sitas氏は、IPBESも世代間公平性の分析を重視していると報告。一方で、若者の貢献に関する「文献上のギャップ」(行動がなされていないのではなく、記録・研究がされていない)が非常に大きいと指摘しました。
  • ブルキナファソのMoumouni Ouedraogo氏は、自国のNBSAPs改定において、若者がデータ収集、草案作成、検証といった全てのプロセスに意味のある形で参加した具体的な成功事例を紹介しました。
  • 生物多様性に関する国際先住民フォーラム(IIFB)の議長であるLucy Mulenkei氏は、先住民の視点から、伝統的知識の継承の重要性を強調。現代の学校教育だけでなく、若者がコミュニティに戻り、長老たちのストーリーテリングから「過去」を学ぶことが不可欠であると訴えました。
  • 世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)のTiffany Straza氏は、モニタリングの専門家として、若者の参加に関するデータ不足の深刻さを指摘。過去のNBSAPを分析した結果、若者に関連する指標を含んでいたのはわずか14%だったと報告しました。

また、参加者からは、「政策提言」だけでなく、若者が植林や保全活動など、現場で行っている活動のデータはあるか、という質問が出されました。

パネリストは、アフリカなど世界中で多くの若者が現場の最前線で活動していると回答。しかし、それらの活動は体系的に報告・集約されておらず、「報告のギャップ」が存在することが課題だと指摘します。

Z世代の底知れぬエネルギー

最後の質疑応答では、世界各地で変革の原動力となっている若者(Z世代)の活動について議論が交わされました。マダガスカルで若者を中心とする熱心なデモ活動が大統領を退陣に追い込んだ事例が紹介され、これほどに強力なエネルギーをどのように活用していくかが焦点となっていました。世代間公平の実現のためにも、力を増し続ける若者たちを積極的に支援し、資金、情報、意思決定の場へのアクセスといった障壁を取り除くことが求められます。こうした行動を我々の責任として続けた末に、「よき先祖」としての立場があるのだと感じました。

 

筑波大学大学院/IUCN-Jインターン生
福井涼士