日本自然保護協会の森本優花です。「ネイチャーポジティブの実現:昆明・モントリオール世界生物多様性枠組み(GBF)に向けた企業と社会の貢献/Nature Positive: Delivering species and ecosystem contributions to the Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework」というイベントに参加しました。
このイベントは、昆明・モントリオール世界生物多様性枠組み(GBF)の実現に向け、社会全体での協働のあり方を探る場として企画されました。生物多様性の損失が進むなか、社会全体が“ネイチャーポジティブ”(自然の回復に向かう社会)を目指すことが求められています。しかし、企業が自らの貢献をどのように明確化し、実践につなげるかについては、いまだ課題が残されています。そのためこのイベントでは、企業・投資家・NGO・コンサルタントらが一堂に会し、それぞれの立場から課題や可能性を語りあいました。
金融機関の立場からBNPパリバのカミーユ氏は、「生物多様性への資金投入は求められているが、効果を測るための指標が十分に機能していない」と指摘し、今後は資金の流れを“自然を損なう活動”から“自然を再生・修復する活動”へと転換させることが重要だと述べました。
環境コンサルティングThe Biodiversity Consultancyのローラ氏は、企業が生物多様性に取り組む際のポイントとして、①多様な業界や金融機関と協力し自然への依存と影響を理解・管理すること、②地域社会と連携して説明責任を果たすこと、③企業内部で評価・規制リスクを考慮しながら戦略を強化すること、の三点を挙げました。
また、Stora Enso社のアニカ氏は、持続可能な森林管理を行う小規模生産者と協働し、再生可能素材を用いた製品を提供している事例を紹介しました。同氏は「顧客は化石燃料由来の包装材を排除し、生物多様性への影響に配慮した素材を求めている」と述べたうえで、「森林管理の成果をわかりやすく示す客観的な指標(メトリクス)の整備が必要」と強調しました。
フォーラム中盤では、参加者がグループに分かれてデイスカッションを行いました。私が参加したグループでは、「企業が生物多様性や自然に配慮した目標を信頼できる方法で測定し、行動に移すにはどうすればよいか」をテーマに意見を交わしました。議論の中では、国際的な枠組みと企業への要求を一致させること、公共データと民間ニーズをつなぐ連携を強化すること、そして顧客・投資家・地域社会の期待をGBFの目標と結びつけることの重要性が指摘されました。こうした意見を通じて、企業単体ではなく、社会全体でデータや評価基準を共有していく必要性が確認されました。
後半では、ネイチャー・ポジティブ・イニシアチブとIUCN(国際自然保護連合)による「RHINOアプローチ」が紹介されました。この手法は、IUCNレッドリストとSTAR指標を基盤とし、特定の種の絶滅リスク低減に向けた行動を数値化するもので、生物多様性データを具体的な保全行動に結びつける枠組みとして期待されています。
フォーラム全体を通じて、「ネイチャーポジティブへの移行には、共有されたビジョンと物語、そして対話を通じた共通理解の構築が不可欠である」という点が繰り返し強調されました。科学的な枠組みや金融メカニズムの整備に加え、関係者の理解と協働こそが変化を生み出す力になることが確認されました。生物多様性の回復という共通の目標に向けて、科学的知見と実践的アクションをつなぐ新たな協働が今、求められています。
(コメント)
日本自然保護協会としては、GBF達成に向けた実践的なツールや指標が整いつつある現状を踏まえ、それらを日本の現場でどう活かすかが今後の課題であると感じました。IUCN RHINOアプローチのような手法は、特定の生物種を対象とした活動で活用の可能性がある一方、複数の生物種を対象とする場合の適用方法についてはさらなる検討が必要です。また日本の自然保護とは異なる要素も多く、密漁への対策や、特定の生物に頼った地域経済をそのように支援していくか、ということが観点の一部になっています。どのようなツールや指標を用いれば日本からGBFに貢献できるのか、情報を整理し、企業や地域と共有していくことが重要だと思いました。
日本自然保護協会 森本優花
登壇者(一部抜粋)
氏名 所属・役職
- Emily NICHOLSON IUCN Commission on Ecosystem Management
- Gavin EDWARDS Executive Director, Nature Positive Initiative
- Annika Gunilla LUNDMARK NORDIN SVP Sustainability, Stora Enso
- Philip MCGOWAN Professor, Newcastle University
- Camille MACLET Head of Nature Capital & Biodiversity, BNP Paribas
- Francesca RIDLEY Research Associate, Newcastle University
- Helen CROWLEY Global Advisor, Nature Positive Landscapes Initiative
- Aymeric ROUSSEL Team Leader, Biodiversity and Ecosystem Services, EU
- Laura SONTER Technical Director – Science & Policy, The Biodiversity Consultancy
- Yang-Chien CHANG Executive Director, Delta Electronics Foundation























