
筑波大学大学院 修士課程1年の作森元司郎です。
このたびIUCN-Jのインターンとして、10月にUAEで開催される世界自然保護会議に参加いたします。
大学院進学後に関わった自然保護の現場では、多くの団体が資金調達に苦慮している実態を目の当たりにしました。そこから、自然保護を基点としたビジネスを創出し、持続可能な形で収益化していく仕組みの必要性を強く認識していました。
そうした折に大学でインターン募集のお知らせを拝見し、「ここであれば自分の関心に応える何かを見いだせるのではないか」と考え、参加を決意しました。とりわけ、自然保護と経済成長を対立概念ではなく相互補完的に結びつける「ネイチャーポジティブ経済」に深い関心を抱いています。
世界自然保護会議は、その理論と実践を国際的な視座から学び得る、極めて貴重な機会だと考えております。
世界自然保護会議(WCC)で注目しているトピック
~ネイチャーポジティブ経済~
ネイチャーポジティブとは何か
私が特に注目しているトピックは「ネイチャーポジティブ経済」です。ネイチャーポジティブとは、人間活動による自然の損失を食い止め、さらに回復・再生の方向へ転じさせることを意味します。具体的には、
- 生物多様性の減少を食い止める(2030年までに実現を目指す国際目標が合意されています)
- 森林再生や湿地回復、マングローブ植林などを通じて自然資本を「増やす」
といった「自然の純増」を目指す考え方です。気候変動対策における「ネットゼロ」に対応する、生物多様性分野の重要なキーワードといえます。
これまで自然を守ることと経済成長はしばしば対立するものと捉えられてきましたが、気候変動や生物多様性の危機が深刻化するなかで、自然資本を損なわず、むしろ再生に寄与する仕組みが強く求められています。
今回のWCCでは、初めて「Business Summit」が設けられます。ここでは、企業が自然関連リスクや機会をどのように経営に取り込み、ネイチャーポジティブ経済を実現していくのかが議論されます。これは、自然保護の分野において企業が従来の「寄付やCSRの担い手」にとどまらず、本業を通じて解決策を担う存在へと変化していることを示しています。ビジネス分野が公式に位置づけられること自体が、世界的な注目の高まりを象徴していると感じています。
Business Summitの役割
IUCNによれば、今回初めて設けられるBusiness Summitは、すでに自然や気候変動に取り組む先進的な企業と、これから関与を始めたい企業が一堂に会し、行動を加速させる場です。ここでは実際の成功事例や革新的な取り組みが共有され、自然資本を回復させる「ネイチャーポジティブ経済・社会」への移行を後押しすることが目的とされています。
特にCEOやサステナビリティ、財務を担当する経営幹部が参加し、自然を経営戦略にどう組み込むか、投資をどう加速させるかについて議論が行われます。これは単なる理念にとどまらず、企業と地域社会の双方に具体的な利益をもたらす「実行可能な行動」を推進することを狙いとしています。背景には、企業が本業を通じて自然保護と経済成長を両立させる国際的な要請の高まりと、その取り組みを世界規模で共有・拡大していく必要性があります。
(出典:IUCN Business Summit 公式ページ)
WCCで得たい情報や発信したいこと
こうした背景から、私は今回のWCCで特に以下の点を学びたいと考えています。
- 企業がネイチャーポジティブ経済を具体的に実装する方法と、それを後押しする制度や枠組み
- 自然資本や生物多様性を組み込んだ新しい金融・市場の仕組み
- 国際会議において、企業・NGO・政府・若手世代がどのように協働しているのか
これらのテーマを現地で吸収し、レポートを通じて「自然保護と経済の両立はどこまで現実的に進んでいるのか」という疑問に迫りたいと考えています。
学内で議論を共有し、将来の自然保護の実践につなげる
帰国後は、学内の報告会を通じて、参加した学生や教員に国際的な議論を共有する予定です。単なる体験報告にとどめず、各テーマを国内の現状と照らし合わせて比較分析することで、学内における議論をより深化させたいと考えています。
また、私は将来的に「自然保護を持続的に実現する仕組み」を担う役割を志しています。今回の会議で得られる知見は、今後の自分の進路、取り組みを支える大きな糧となり、実践の方向性を示す指針になると考えています。
筑波大学大学院/IUCN-Jインターン
作森元司郎