IUCN-Jは、2025年10月に開催されるIUCN世界自然保護会議(World Conservation Congress:以下、WCC)に参加します。この会議には世界中から専門家が集まり、自然保護政策や気候変動について議論が交わされます。IUCN-Jは国際会議レポートを通じて、その内容を日本の皆さまにお届けします。

 

1. IUCNとは?

IUCN(国際自然保護連合)という名前を聞いたことがありますか?
1948年に設立されたIUCNは、現在では世界最大かつ最も多様な環境ネットワークであり、1,400を超える加盟団体と17,000人の専門家の知識・資源・影響力を活用しています。この多様性と専門性によって、IUCNは自然界の現状と、その保全に必要な対策に関する世界的権威となっています。

「遠い世界の話」と感じるかもしれませんが、実はIUCNの活動は私たちの暮らしとも繋がっています。

卑近な例を挙げると、チョコレートです。おやつとして身近な存在ですが、その原料となるカカオ畑を作るために熱帯雨林が伐採されることがよくあります。その結果、森にすむ動物の居場所が失われ、生き物の絶滅リスクが高まってしまいます。IUCNはこうした「森林破壊」と「生き物の絶滅リスク」の関係を調べて発信しており、スーパーに並ぶ「フェアトレード」や「サステナブル」と書かれた商品ラベルの背景にもIUCNの基準が生かされています。

また、動物園で「絶滅危惧種」と表示される動物たちの多くもIUCNのレッドリストに基づいています。ジャイアントパンダが「絶滅危惧種」から外れたというニュースも、IUCNの評価が背景にありました。

このように、チョコを購入するときや動物園を訪れるときなど、私たちの生活の近くにIUCNの知見と活動があり、私たちの日常と確かにつながっているのです。

2. IUCN-WCCとは?(会議の概要と今回の詳細)

IUCNが主催するWCCは、4年に一度開かれる「自然保護のオリンピック」とも呼ばれる国際会議です。世界中から政府、研究者、NGO、企業、市民団体など数千人が集まり、地球環境の未来について話し合います。ここで採択される「モーション(決議)」は、IUCNの行動方針や提言内容に反映され、それを通じて国際条約や各国の政策に影響を与えることもあります。そのため、WCCは世界の環境ルールを決める重要な場になっています。

実際、前回のWCC(2021年・フランス・マルセイユ)では「使い捨てプラスチックを減らすべきだ」という国際的な合意が交わされました。こうした流れを受けて、私たちの生活でもレジ袋の有料化やストローの紙製化などが一気に進んでいます。

遠い国際会議のように見えても、そこでの議論はすぐに私たちの買い物や日常に影響してくるのです。

WCCは、「フォーラム」「展示会」「総会」の3つから構成され、4年に一度開かれる世界最大級の環境会議です。

フォーラムでは、世界中の専門家や市民社会が集まり、自然保護や気候変動について議論が行われます。

展示会では、IUCNメンバーや委員会、企業、学術機関、パートナー団体がブースやパビリオンを出展し、それぞれの研究成果や自然保護プロジェクトを紹介します。展示は登録者だけでなく一般市民にも公開される予定で、世界中の最新の取り組みに触れることができます。

そして、総会では、IUCNの会員である各国政府やNGOが投票を通じて重要な決議を採択し、国際的な環境政策に大きな影響を与えます。

3. WCC2025 in アブダビ

今回のWCCは、2025年10月9日から15日にアラブ首長国連邦のアブダビで開催され数千人が参加すると想定されています。ここでは、世界の未来に直結する5つのテーマが話し合われる予定です。

  1. 自然保護の行動をもっと広げること
    気候変動や生物多様性の危機に対応するため、科学や地域の知恵を活かしながら、保護の取り組みを大きく広げていくこと。
  2. 気候変動のリスクを減らすこと
    森林の回復や湿地の保全など、自然を味方につけた方法で、気温上昇や災害リスクを抑えていくこと。
  3. 公平性を大事にすること
    先住民、女性、若者といった多様な人々の声を反映させ、環境保護を誰一人取り残さず進めること。
  4. ネイチャーポジティブな経済や社会に移行すること
    自然を壊す経済モデルから、自然を再生し人と自然がともに豊かになる社会モデル
  5. 革新的な技術やリーダーシップを取り入れること
    AIや新しい制度、柔軟なガバナンスを活用し、これまでにない方法で自然保護を加速させていくこと。

こうしたテーマは、会議で話し合われて終わりではありません。WCCで決まった方針は、世界1200以上の団体や政府の行動につながり、さらに国際的な自然保護のルールづくりにも反映されます。そこから生まれる協力関係は、各国の政策や企業、市民の活動を後押ししていきます。

そしてその動きは、私たちの暮らしにもつながります。たとえば、電気の作り方が変わったり、レジ袋を使わない仕組みが広がったり、買い物で環境に優しい商品を選べるようになったり、地域の学校で自然を学ぶ機会が増えたりするのです。

 

4. WCCでのIUCN-Jの活動

IUCN-JがWCCに参加して行う仕事は、大きく分けて「情報収集」と「情報発信」の二つに整理できます。まず、国際会議に参加することで会場での議論や決定事項を直接収集し、それを日本国内に向けて発信します。具体的には、どのようなテーマが話し合われているのか、どのような決議が採択されたのか、そしてそれが日本や私たちの暮らしにどのように関わるのかをレポートとして発信し、世界の自然保護の最新動向をタイムリーに伝えていきます。

同時に、IUCN-Jは日本から世界に向けても情報を発信します。その方法の一つが展示ブースの出展です。ブースでは日本における自然保護の取り組みや研究成果を紹介し、海外の参加者と交流を深めます。こうした対話や出会いを通じて、日本の取り組みを「見える形」で国際社会に伝え、双方向の情報発信が、IUCN-Jの重要な役割となっています。

 

今回のWCCでも、私たちの未来のあたりまえを作る大きな決断が下されるかもしれません。

WCC及び、IUCN-Jの発信する国際会議レポートに是非ご注目ください!!

 

IUCN-Jインターン
作森元司郎