IUCN Congressの5日目、2025年10月13日にIUCNプログラム2026-2029パビリオン – R3において、「自然と人間のための行動の調整と拡大:IPBESネクサス評価」と題したイベントが、主催:IUCN、共催:IUCN生態系管理委員会・IUCNフランス国内委員会・IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)で開催されました。その内容をご紹介します。

[IPBESネクサス評価とは]

IPBESは2021~2024年に、生物多様性、水、食料及び健康の間の相互関係に関するテーマ別評価を行いました。これを通称「ネクサス評価」と呼んでいます。2024年12月にナミビアのウィントフックで開催されたIPBES第11回総会において、その報告書が承認されています。政策決定者向け要約(SPM)について、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)がその概要を以下のようにまとめています。

IPBESネクサス評価報告書SPM概要

[イベント概要]

今回のイベントは、その主な成果であるキーメッセージ、ネクサス要素のトレンド及び関連する取り組み事例について紹介するものでした。登壇した6名の発表で特に印象に残ったのが、「ネクサスの相互作用を考慮した10分類71種類の対応策(Response option)のほとんどは、ネクサス要素間全てに正の影響があり、負の影響が含まれるものは一部」であり、その結果として「生物多様性、水、食料、健康、気候、の全てを同時に解決する対応策は既に存在し、いち早く実践することが重要」である、ということが繰り返し述べられたことでした。

対応策によるネクサス間の影響

これは生物多様性保全に長年取り組んできた身としてはとても衝撃的でした。なぜなら、これらのネクサス要素間の対立構造に目を奪われて、対策を非常に限定的に考えてきたのではないか、と思い至ったからです。改めて、広範な科学的知見に基づく評価が生物多様性の保全をより確実なものにする、という認識を持ちました。IPBESでは2026年以降もビジネス評価など様々なテーマについて報告書が発行されますので、注視していきたいと思います。

[取り組み事例]

イベントでは、上記対応策の実例がいくつか紹介されました。その中で、IPBESネクサス評価にフェローとして参加されたパウリナ・カリム氏の活動についてご紹介します。

IPBESネクサス評価フェロー パウリナ・カリム氏

台湾に住むカリム氏は、花蓮県(Hualien County)新社村(Xinshe Village)での先住2民族が生活する河川水系におけるランドスケープアプローチによる保全の取り組み、台南市での湿地再生・保全について紹介しました。後者の取り組みにおいては、2009年に個体数が275羽まで減少した希少種レンカクの保護を目的として湿地の保全を進めた結果、2024年に3030羽まで増加したことが紹介されました。

台南市(台湾)での湿地再生・保全

レンカクは日本でも稀に見られる鳥であり、私も一度観てみたいと思っている種類です。この発表を聞いて、台湾に視察に行きたい気持ちが高まってしまいました。

 

宮本育昌
NPO法人アースデイ・エブリデイ