生物多様性条約(CBD)の第27回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA27)が、2025年10月20日、パナマ市で開幕しました。本会合は、昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の実施状況を科学的・技術的観点から検討し、次回締約国会議(COP17)に向けた提言をまとめる重要な機会となります。初日は、議題1から4までが進行し、会議運営の確認に続き、各国代表による開会挨拶と主要論点の提示が行われました。

開会式:行動と資金の両輪を求めるパナマ

開催国パナマを代表して環境大臣が挨拶を行い、海と大陸を結ぶ生物多様性豊かな国として本会合を主催できることを誇りに思うと述べました。生物多様性・気候・土地を統合する国家戦略「Nature Pledge」を紹介し、科学的根拠に基づく行動と成果の可視化の重要性を強調しました。また、資金動員を「グローバル枠組の心臓部」と位置づけ、GEF改革やカリ基金の停滞への懸念を表明。持続可能なバイオエコノミーの推進を通じて、自然の価値を人々の幸福に結びつける実践的な取組を呼びかけました

続いてCBD事務局長は、KMGBFの実施状況を評価する「グローバルレビュー」の意義を強調しました。これまでに55か国が国家生物多様性戦略行動計画(NBSAP)を改定し、100か国を超える国々から3300を超える目標が提出されていることを紹介しました。そのうえで、これらをいかに集合的に評価し、人々と地球に利益をもたらす実効的な行動へとつなげるかが鍵であると述べました。また、気候変動と生物多様性は「同じコインの両面」であり、IPBESとの緊密な連携や、農業・林業・外来種対策を含む作業プログラムの強化が必要であると指摘しました。課題の多さを認めつつも、「効率的かつ相互尊重に基づく協働が不可欠」と訴えました。

議題3:進捗評価をめぐる多様な視点

初日の議論では、議題3「計画・モニタリング・報告・レビュー」の意見表明が行われました。昆明・モントリオール生物多様性枠組の進捗を評価する(グローバルレビュー)ために作成を決めたグローバルレポートの目次や内容の構成(報告書のプロット)について先進国と途上国の立場から多様な意見が提示されました。

先進国側は、2030ビジョンや23の目標それぞれの評価の重要性を指摘し、科学的整合性とデータ基盤の強化を求める意見が多かったように思います。各目標の進捗と課題、政策手法を明確に整理する必要があると指摘です。日本は、世界目標と国内目標の差異分析や成功事例の共有を提案し、EU諸国は、他の環境条約(MEA)やGEF資金などの情報も活用した効果的な政策手段を求めました。スウェーデンは、先住民や地域共同体の取組を評価に反映させるべきと述べました。

一方、途上国は、実施手段の不足と資金・技術移転・能力養成の課題等を整理する項目の追加を求める声が多かったように思います。メキシコやモロッコ、コロンビア、グアテマラなどは、資金動員・技術移転・能力養成を強化し、途上国が直面する障壁を踏まえたレビューが必要と主張しました。ブラジルや中国、アルゼンチンは、個々の国の責任追及につながるような比較に慎重な姿勢を示しました。全体として、先進国が「効果的な対策」に、途上国が「対策を実行する力」に焦点を当てる構図が浮かび上がっていたように思います。

科学と政策の接点へ

初日午後は、議題4のIPBESの成果の活用について議論しました。この間にIPBESは生物多様性と気候変動や食糧システムとの関りなどをまとめた「ネクサス評価」と、「社会変革(トランスフォーマティブチェンジ)報告」という2つのレポートを発行しています。これら科学的評価に対して、意見では、おおむねIPBESのレポートを歓迎する声が大半を占めつつも、今回の報告書のキーメッセージが難しすぎたという意見も聞かれました。そのほか、IPBESレポートで示された政策オプションを元にどう行動に翻訳するかが重要という意見も多くみられました

国際自然保護連合日本委員会 道家哲平