GWPのガイダンスノート※1と実践事例

 Golobal Wildlife Program (GWP) は、38カ国に及ぶGWP参加国のニーズアセスメントに基づいて、現場向けの4つのガイダンスノートを発表しました。これらは違法取引、ネイチャーツーリズム、人間と野生生物の衝突等に関するもので、以下の要素を含んでいます。

  • 14の介入起点と50以上の望ましい行動
  • Theory of Change※2を用いたモデル戦略
  • 計画と設計のための社会調査
  • カスタマイズされたコミュニケーションとメッセージングに関する体系的なガイダンス

 成功事例として紹介されたメキシコのジャガー共存プロジェクトでは、減少傾向にあるジャガー、メキシコオオカミ、アメリカグマを対象に、人間と野生生物の衝突の削減に取り組みました。地域住民や牧場主による野生生物に対する報復行為の防止を目指しています。実は人間との衝突の40%はこれらの野生生物ではなく、野犬が原因であることを特定し、地域住民の理解を促進しました。また、人間と野生生物の衝突の原因となる不適切な廃棄物管理等の介入も行いました。

 また、ザンビアの気候変動適応型農業では、土地生産性を向上させることで、農民が「木を切らずに」「より少ない労働時間で」利益を得られるようにしました。土地生産性向上と農作業時間の短縮というニーズに応えることで、森林保護すなわち野生生物保護と、生計向上を両立させた事例として紹介されました。

※1 GWPのガイダンスノートは以下に公開されています。
https://www.worldbank.org/en/programs/global-wildlife-program/publications

※2 Theory of Change:介入の集合体が特定の開発変化をどのように生み出すかを、証拠に基づく因果分析によって説明する手法。IUCNのTheory of Changeに関するサイトはこちら
https://iucn.org/our-work/topic/sustainable-food-and-agricultural-systems/theory-change-detail

行動変容の課題

 行動変容アプローチを推進する上での主要な課題は以下のとおりと特定されています。

  • 指標の欠如:評価されたプロジェクトの過半数で行動変容指標が不足しており、影響の追跡と測定が困難になっている。
  • スキルと用語の統一:特にアフリカ地域でのスキル構築が不可欠。また、分野全体の用語と言語の不一致を解消する必要がある。
  • 倫理的配慮:「誰が、なぜ行動を変えるべきかを決定するのか」という問いを含め、倫理的側面が必須であり、避けて通れない課題として認識されている。
  • 学際的な協力:行動科学者、リソース開発者、現場の実務家、人類学者など、多様な専門分野の統合が、地域社会の視点や文化的複雑性を理解するために不可欠。

 行動変容を伴うプロジェクトの成功には、知識の提供だけでは不十分であり、介入の測定と設計の両面で戦略的なアプローチが必要であることが、86プロジェクトの独立評価から明らかになりました。評価により、プロジェクトの過半数(50%超)で行動変容の指標が欠如しており、効果測定が妨げられているという深刻な問題が判明しました。

 成功の鍵は、ステークホルダーの行動を妨げる3つの条件(その1で紹介した①ニーズ、②動機、③バリア)すべてに対処することです。特に、望ましい行動を容易にし、摩擦を減らすことが、行動変容を促進する上で不可欠です。この知見に基づき、評価は行動変容指標を必ず含めること、および介入がこの3条件を確実に満たすよう設計することが求められます。

最後に

 これまでの野生生物保護の手法は、象牙の密輸ルートを断つといった供給側を取り締まるものでした。しかし、ニーズ・動機・バリアの3条件を満たせていない状態では、規制をかい潜る行動があとを断ちません。行動科学の適用は、現地住民の生活と野生生物保護を両立させる新たな手法として、大きな可能性を秘めています。セッションを通じて、倫理的かつ文化的に適切な方法で行動変容の波を加速させることが、今後の野生生物保護の鍵であるというメッセージを受け取りました。

ROOTs 矢田麻衣