
1.セッション概要
本セッションは10月13日にIUCN Green List Pavilionにて開催され、「People, Places, and Partnership: Africa’s OECM Experience(人と場所と協働 ― アフリカのOECMに関する経験)」をテーマに、アフリカ各国におけるOECM(その他の効果的な地域に基づく保全手段)の実践と課題が議論された。
登壇者にはIUCN南アフリカ事務所、コンゴ盆地の保全関係者、地域コミュニティの代表などが参加し、地域社会主導の自然保全をいかに促進するかという視点から多様な議論が展開された。
2.OECMとは何か
OECM(Other Effective area-based Conservation Measures)とは、「正式な保護地域ではないが、生物多様性の長期的保全に実質的に寄与している地理的区域」を指す(IUCN, 2019)。地域住民が慣習的に森林や海を管理する地域、または企業が自主的に保全活動を行う土地などがこれに該当する。
この概念が注目される背景には、生物多様性条約(CBD)が掲げる「30 by 30」目標の達成がある。既存の国立公園や自然保護区だけでは地球規模の生物多様性危機に対応しきれないことから、行政による指定地に加え、地域社会や民間、宗教組織など多様な主体による自主的保全活動をOECMとして認める動きが進んでいる。
私自身も筑波大学構内の土地をOECMとして登録する活動に携わっていることから、他地域の事例に関心を持ち本セッションに参加した。
3.セッション内容
(1)南アフリカ・ディクシー村の事例
登壇者は、南アフリカのディクシー村をOECMの好例として紹介した。この地域では、伝統的首長を中心に「地域開発フォーラム」や「農民フォーラム」が設けられ、住民が放牧や土地利用について意見を交わす仕組みが整えられている。これらの組織は互いに連携し、放牧方法の調整を通じて持続可能な土地利用を進めている。こうした協働的な管理体制こそがOECMの理念を体現していると登壇者は強調した。
(2)コンゴ盆地の事例
登壇者は、この地域におけるOECM導入の重要性を強調した。コンゴ盆地は生物多様性が極めて豊かで、気候安定や炭素吸収など地球規模の生態系機能を担っているが、これまでの保護区指定は地域住民の生活や土地利用を制限し、対立を生む要因となってきたと指摘された。
OECMの枠組みを活用することで、地域森林や先住民の管理地を国際的に認知し、法的拘束を伴わずに地域主導の保全活動を国際目標(GBF目標3=30by30)に位置づけることができるという。特に、地域共同体による森林管理や、持続可能な伐採を行う森林コンセッションなど、すでに現場で成果を上げている取り組みをOECMとして登録することで、保全と生活の両立を実現し、住民の権利尊重と生態系保全を同時に進める可能性が示された。
(3)OECMの課題と新たな動き
一方で、OECMの概念が現場に十分浸透していないという課題も挙げられた。登壇者は「多くの地域コミュニティはOECMの定義を知らず、制度的支援も不足している」と述べ、教育や広報の重要性を強調した。
さらに、こうした課題に対応するために設立された「Pan-African OECM Alliance」の活動が紹介された。同アライアンスは、地域主導の認証制度や政策連携を通じて、アフリカ全域での知見共有を促進することを目的としている。
(コメント)
従来の国立公園などの制度的保護は、法的枠組みのもとで自然を守る一方、地域住民の伝統的な土地利用を制限してしまう側面がある。今回のセッションでは、そうした制度的限界を補完し、地域社会の自主性を生かす仕組みとしてのOECMの有効性を、現地の実践例を通じて理解することができた。
特に、行政が一方的に管理するのではなく、「一定の自由を残しつつ、監視と支援を続ける」という柔軟なアプローチに、OECMの真の価値があると感じた。
また、土地の所有形態や利用のあり方が国によって大きく異なることを踏まえると、世界的に一律の仕組みを展開することは容易でない。だからこそ、似たような土地制度や社会構造を持つ地域同士で成功事例を共有し、相互学習を進めることがOECMの実効性を高める鍵になると考える。
今回紹介されたPan-African OECM Allianceは、こうした知見共有と地域連携のハブとして重要な役割を果たしていくことが期待される。
筑波大学 世界遺産学学位プログラム
/IUCN-J インターン 作森 元司郎
登壇者一覧
- Malidadi Langa(Alliance for Indigenous Peoples and Local Communities for Conservation in Africa:AICA)
- Jose Monteiro(ReGeCom)
- Michel Masozera(Wildlife Conservation Society)
- Nikhil Sekhran(WWF US)
- Dickson Kaelo(Kenya Wildlife Conservancies Association)
- Harry Jonas(IUCN Commission on Environmental, Economic, and Social Policy, 2021–2025)
- Daniel Marnewick(IUCN)
- Harriet Davies-Mostert(Conserve Global)
参考資料