
1.概要
本フォーラムは「Conservation Challenges and Outlook for Madagascar’s Protected Areas(マダガスカルの保護区における保全の課題と展望)」をテーマに開催された。マダガスカルは世界でもっとも高い固有種率を誇る一方で、人類が進出して以来土地利用の拡大や森林伐採の進行により、極めて多くの種が絶滅の危機に瀕している。本セッションでは、IUCNマダガスカルのメンバー11団体を中心に、19のNGO・政府機関・学術関係者が連携し、保全戦略の共有と協働プラットフォームの形成を目的として議論が行われた。
2 セッション内容
(1)冒頭スピーチ
冒頭では、登壇者からマダガスカルの現状に対する強い危機感が表明された。気候変動や森林減少が急速に進む中で、「今後5年間に行動を起こさなければ、失われた生態系は二度と戻らない」との警鐘が鳴らされた。「マダガスカルの環境問題はマダガスカルだけの問題ではなく、世界全体の持続可能性に関わる課題である」との認識が共有された。
(2)Madagascar Protected Areas Outlook 2025 の発表
続いて、34のNGOと政府機関が共同で作成した「Madagascar Protected Areas Outlook 2025」が発表され、参加者に報告書が配布された。この報告書では、国内の保護区ネットワークの現状を総合的に評価し、気候変動、資金不足、ガバナンスの課題を踏まえた中長期的な行動計画が提示された。特に、地域コミュニティが保全活動に主体的に関与する仕組みを制度的に整えることの重要性が強調された。
(3)資金調達と制度的課題
フォーラム後半では、長期的な資金確保と制度設計のあり方が主要なテーマとなった。
登壇者たちは、保全プロジェクトを持続的に進めるためには、国際機関や民間資金を呼び込む仕組みの構築が不可欠であると指摘した。また、これと同時に外部資金に依存しすぎる構造を脱し、現地に根ざした財源形成の必要性が強調された。さらに、透明性の高いモニタリング制度や、投資効果を示す評価指標の整備も重要な課題として挙げられた。
(4)コミュニティの参画と協働ガバナンス
議論の中で特に注目されたのは、地域コミュニティの役割である。登壇者は、保全活動の持続性を担保するうえで、住民が意思決定の段階から参画する仕組みが欠かせないと述べた。
エコツーリズムや特産品開発などを通じて、住民が自然保護によって直接的な収入を得るモデルが紹介された。これは「保全=負担」という従来の構図を、「保全=利益」に転換する実践として紹介された。
また、コミュニティ代表を保護区の運営委員会や資金配分の議論に加えるなど、仕組みを強化する必要があるとの意見が多く出された。地域の信頼と透明性を高めるためのガバナンス改革が、今後の焦点として示された。
3.コメント
この議論を聞きながら、私は日本の少子高齢化問題を想起した。日本は今まさに深刻な人口減少社会に直面しており、世界各国からその対応に注目が集まっている。これは一見すると国内固有の問題のように思えるが、いずれ多くの国が直面する課題であり、日本は「課題先進国」として世界に先駆けて解決の道筋を示す立場にある。
同様に、マダガスカルもまた、島国という地理的特徴から気候変動の影響を強く受けやすい。大陸であれば、生物は気温上昇に応じて生息域を北へ移すことができるが、島ではその逃げ場がなく、絶滅のリスクが高まる。加えて、マダガスカルはインド洋の台風経路上に位置しており、異常気象の通過点として度重なるサイクロン被害を受ける地域でもある。これにより、生態系だけでなく人々の生活基盤やインフラも繰り返し打撃を受けており、保全と防災の両立が喫緊の課題となっている。
こうした脆弱性の中で自然と共に生きるマダガスカルの取り組みは、まさに地球規模で進行する環境危機の「縮図」であり、他国に先立って課題に向き合う「環境課題の先進国」といえる。したがって、マダガスカルの保全は一国の問題ではなく、世界全体の持続可能性を考えるうえでの試金石であるという認識を持った。
そして、そのような認識を持ち、強い使命感と共に活動する彼らの言葉に感銘を受けた。
筑波大学 世界遺産学学位プログラム/IUCN-Jインターン
作森元司郎
登壇者一覧
- Mr. Rija Ranaivoarison(Fondation des Aires Protégées et de la Biodiversité de Madagascar)
- Mrs. Tiana Andriamanana (FANAMBY)
- Mr. Alain Sandy Liva Raharijaona (SPACES Program)
- Dr. Seheno Andriantsaralaza (FANAMBY)
Madagascar Protected Areas Outlook 2025 https://conservationallies.org/outlook/