
“Delivering Impact through a Strong Union”(報告書)は、2021年から2025年の4年間にわたるIUCN(国際自然保護連合)の活動成果を体系的に整理したもので、総会(Members’ Assembly)の冒頭で紹介されました。この報告書に乗っていないニュースもたくさんありました。IUCN種の保存委員会は、世界最大の保全科学のボランティア集団(11,000人)としてギネス記録に乗ったそうです。
報告は主に以下の4軸で構成されています。
1. 戦略的枠組みと進捗の全体像
IUCNは「Nature 2030」戦略に基づき、自然保全を社会経済の主流に位置づけることを目的として活動。重点分野は以下の5つ。
- 気候危機への自然を基盤とした対応(Nature-based Solutions)
- 海洋と陸域の生物多様性保全
- 公平で包摂的なガバナンス
- ネイチャーポジティブな経済変革
- 知識とデータのオープン化・科学的基盤の強化
2021年マルセイユ会議以降、特にGBF(昆明・モントリオール生物多様性枠組)実施支援、NbSのグローバルスタンダード普及、自然資本会計・TNFD支援が柱となり、国際的な政策枠組みの形成と実装をリードしてきたとまとめています。
2. 成果の指標(Key Numbers)
報告書では、2021–2025年の成果を数量で示しています。
- 分野 主な成果・数字
- IUCN会員の変化: 1,476会員(政府91、政府機関212、NGO1,114、先住民組織59)へ拡大
- 委員会の取り組み: 6つの専門委員会に16,000人超の専門家が登録、190か国以上で活動
- NbSスタンダード活用国:約100か国が導入・適用(政府・企業・開発機関含む)
- Knowledge Products:Red List 170,000種超の評価を実施、Green List 80サイト超、Ecosystem Typology 100分類を整備
- プロジェクト:約1,200件のプロジェクトを運営、総額6億スイスフラン(CHF)超を動員
- 地球規模パートナーシップの拡大:GEF、EU、世界銀行、UNDP、AFD、ADB等と180以上の契約・協働枠組みを形成
コミュニケーション SNSフォロワー150万人超、年次訪問者2000万ページビュー
3. 政策的インパクトと制度貢献
国際政策との接続
IUCNはCOP15(CBD)、COP28(UNFCCC)、UNEA、UNCCD COP15等で正式パートナーとして政策提言を実施。
「Nature Positive by 2030」「NbS Global Standard」「30by30保護区目標」などの概念は、IUCN主導の科学・政策ネットワークを通じて国際政策に反映されました。
企業・金融分野との協働拡大
TNFD、SBTN、We Value Nature、UNEP-FIなどと連携し、自然関連リスクと機会の情報開示・投資ガイドラインを開発。60社超のグローバル企業がIUCNのパートナーとしてNbS導入を実施(例:Nestlé, Holcim, HSBC, Toyota, Olam等)。
地域プログラムの拡充
- アジア太平洋地域:30by30海洋保護、里地・草原の回復(日本・韓国・中国・東南アジアで展開)
- アフリカ地域:グリーンウォール計画や湿地再生で約150万人の生計改善
- ラテンアメリカ:森林再生・水源保全のためのグリーンボンド支援
- 中東・中央アジア:水資源・砂漠化対策を中心に、政府・企業・コミュニティを横断した新プロジェクトを推進
4. 組織・財務の健全化
報告では、IUCN事務局のガバナンスと財務運営の改革も強調されています。
- 財務安定化:年次収入は2021年 1.19億CHF → 2024年 1.38億CHFに増加。自立的資金源(プロジェクト資金・寄付)の比率を60%超に。
- デジタル基盤:IUCNポータルの刷新により、Red ListやGreen List等のデータアクセスが拡大。
- ジェンダー・多様性推進:全職員の47%が女性、地域ディレクターの半数がGlobal South出身。
- 内部評価制度:成果主導型(Results-Based Management)を導入し、プロジェクト評価指標を統一。
5. 振り返りと次期展望(Toward 2030)
事務局長は次の5年間に向け、IUCNが果たすべき優先課題として次を提示しています。
- 自然を基盤とした経済再設計(NbS・自然資本の主流化)
- 政策・金融・市民社会の“三者連携”による実装強化
- 科学的知識とローカル知の統合
- 危機対応能力(resilience)と包摂性の強化
- 若者・先住民・地方政府の参画促進
この報告に基づき、IUCN世界自然保護会議では、20年ビジョンや4か年計画を議論します。これから、IUCN-Jとしても重視する来年のCBD-COP17(エレバン)や第2回Global Nature Positive Summit(熊本)での展開を考えていくことになります。
国際自然保護連合日本委員会 道家哲平